とある恋人たちの日常。

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 これはほんのささいな決め事。
 我が家にとっては当たり前の「お約束」。
 
「ただいまぁ!!」
 
 俺が自宅に帰ると家に響くように大きめな声を出す。
 
 すると、ひょこっと恋人が顔を出して、蕾が一気に花開くような満面の笑みを向けてくれた。
 
「おかえりなさいー!!」
 
 そして俺の胸に飛びついて、強く抱きついてくれた。もちろん俺も彼女を強く抱きしめた。
 
 この温もりと、彼女の特有の香りが精神的に落ち着いていくのが分かる。
 
 一分ほどたっただろうか。
 互いに力を抜いて、視線を合わせると笑顔になる。
 
 ここまでが一緒に暮らすようになってからの「お約束」。
 
 ケンカをすることはないのだけれど、ちょっとだけ険悪になることは時々ある。
 
 でもそういう時でも、帰った後に抱きしめ合うと心が落ち着くんだ。
 
 俺が帰った時だけじゃなくて、彼女が帰った時でも俺が出迎えて彼女の体温を身体で受け止める。
 
 こういうとこを繰り返していると、不安になった時に彼女の体温があれば安心するのだと理解した。
 だから、彼女との「お約束」をやめる気はない。
 
 俺が俺としているためにも。
 
 
 
おわり
 
 
 
二九二、約束

3/4/2025, 2:10:02 PM