夏子

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美容師を選び、厳しく辛い修行を
経て、もう少しで半世紀が近い

小さな店を持ち、独立してからも
早、30年近くが過ぎた

接客業というものは、毎日が
出会いと別れの繰り返しだ…

髪を切り綺麗に仕上げ、ニコニコ笑顔で
見送ったとて、次に会える保証など
どこにも無い

実際、来店後にいきなり他界した人も
半世紀もやっていれば必ずいる

それから、お客様の都合…
心変わりなどは日常茶飯事だ

一昔前は、まだまだ人の心が読めず
再会出来なくなった人の面影を追い

「私の何がダメだったんだろう」

そう、悶々と自問自答し眠れない夜を
過ごした日々もあった

けれど、いつしかそんな感情は捨てた
私は、使い捨ての存在なのだ…

結局、すぐに取って代わられる立ち位置
なんだから、余りに深い情を持つ立場
ではないのだ

人とは、出会う時期だから出会って
学びが終わると、自然と離れる

捨てられているように見えて
捨てているのかもしれない

だから、髪を切って技術を提供している
一瞬、一瞬に全力で向き合い楽しい
時間を分かち合う…

そして、執着とか未練とかそんな感情を
持たないように、別れる時がいつ来ても

「またね、今までありがとう」と
サラッと次に進めるように日々強く生きる

もがき苦しみ……
今の私が手に入れた鋼の精神である






8/6/2025, 9:47:33 PM