ニワトリ

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遠い日の記憶
 
―パチンー
公園にさしかかる舗装もされていない田舎の道。
通学路の途中、叩かれたのは左側の頬だった。
 
新しく来た転校生の男の子。
幼い私にはそれはきっとカッコよく見えたのだ。
いつ頃からかそれは小さな恋になっていた。
同じ方向の帰り道、別の女の子と後ろをついてうれしさやワクワクがある中で歩いていた。
同じ帰り道で姿が見えることが嬉しかった。
のだと思う。
今では、それを言葉に表してみてもその時の気持ちがはっきりしない。
 
その時、何を言われて叩かれたのか、なんだったのかはっきり覚えていない。
ウザいとか、そんなことだったんだと思う。
その男の子は、叩いてなにかの言葉を残してそのまま去っていったと思う。
 
驚いたこと、痛いこと、恥ずかしいこと、悲しいこと、そうして混ざった感情の結果、
私は一緒にいた友達に対して、涙をこらえながら笑っていたことだけは覚えている。
気にしてないというような、きっと今の自分から見たらそんな風には一切見えないだろう表情で。
 
イヤなことがあっても、きっとうまくはないのに「へらへら笑う」。
それが、そんな早くから身についていたのかと、振り返れば悲しくなる。
 
自分のことなのに、自分の気持ちの表現は簡単にはいかない。
それを、いまも感じている。
そして、それを、いま変えようとしている。

7/18/2023, 7:11:25 AM