ーー元気?
ーー元気だよ
ーーこっち、まだ暑いよーうだるー
ーー海あるからいいじゃん!海行きてええええ
ーー海は泳げなくなったよ、君のおばーちゃんのおでん食べたいなぁ
ーーUberしよか、俺
ところで海開きの反対って、なんて言うの
ーーさあ? 海、閉じ……?
ーー語呂悪っ
ーーじゃシークローズ
ーーかっこよ
「……何見てんの」
あたしが聞くと彼はぱっと携帯から顔を上げた。慌てたそぶりも見せずにLINEのアプリを閉じる。
笑顔で
「何も、明日の天気どうかなぁって」
と言う。
「……どうだった?」
「晴れ」
「そ、か。良かった」
明日、おばあちゃんとこにご挨拶だものね、婚約の。お天気はいい方がいい。そう言うと、
「会うの、楽しみにしてるよ。俺の選んだ人に間違いはないって、君に会う前から断言してるし」
「うわー、ハードル上がるなぁ」
緊張すると言うあたしの肩を優しくぽんぽんとしてくれる彼。
……あたしは気づいている。
10年前、彼が高校の時田舎のおばあちゃんちで出会った女の子と、当時やりとりしていたLINEの履歴を今でも消せていないこと。
たまに見返しては、切ない顔をしてること。
古いアルバムの写真のページをめくったときのように。
まさか、あの後、交通事故で亡くなってしまうなんて誰が想像しただろう。
真夏の海風と健康的な笑顔の残像と初恋の熱だけを彼の胸の内に焼き付けて、その子は去った。はるか遠いところへ一人で。
彼と再会することは叶わないままーー
……彼のLINEから、この先、その女の子とのやりとりは消えることはないだろう。
それでもいい。あたしは切ない夏の初恋を懐きながら、時折切ない目をする彼を愛すると決めた。
これから先、ずっと。
この10年、そうしてきたように。彼の一番近くで。彼より先に逝かないと、もうあんな風に悲しませないと心の中で誓いながら。
「おばあちゃんにご挨拶するとき、手を握っていてね。緊張するから」
お願いすると、彼は「もちろん」と笑った。
#本気の恋 の続編です。
#君からのLINE
9/15/2024, 6:38:40 PM