『今日にさよなら』
朝から始まったデートはずっと楽しいままに夕暮れ時になった。手を繋いで帰り道を歩くふたりを夕焼けが照らしている。西日色に染まる雲を美しいとも思わず、ただ隣を歩く君のことを想って呟く。
「夕焼けを見てると寂しくなるのはなんでだろうね」
遠くの空を見ながら少し考えた君は言う。
「太陽の気持ちがうつっちゃうから、ですかね」
なるほどと思いながら地平線に沈みゆく太陽に別れを告げる。さよなら太陽。明日もきっと会えるよ。
駅に着いてしまったので帰り道はここで終わり。けれど繋いだ手を解く気が起きず、気の利いたことも言えないうちに乗る予定の電車が走り去ってゆく。
「太陽の気持ちがうつっちゃいましたね」
「うん、そうかも」
「でも、さよならしないとまた会えません」
繋いでいた手をするりと解いた君は小指を差し出した。
「約束、しましょう」
また今日みたいな楽しいデートができますように、と華奢な小指は私の小指を絡めて唱える。嘘をついたら針千本。
「……針千本はふたりで千本なのかな」
「それかふたりで二千本ですね」
うふふ、と笑いながら少し薄れた寂しさを抱えてデートを終わりにする。
「じゃあ、また」
「おやすみなさい」
手を振る君に手を振り返しながら、小指の感触を思い出していた。
2/19/2024, 4:22:20 AM