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令和7年4月15日

お題 「春恋」 


「まだ見ぬ、波濤」  作 碧海 曽良

夏の太陽がカーテンの隙間から差し込んだ
いつの間にか時計は正午前だ、ボンヤリと起き上がり完全オフの夏ボケ頭を揺らしながら之子は起き上がった。台所に向かい誰も居ないことに気付きながら氷水を煽り飲む。「母さんもばあーちゃんも早いなぁ」と、ばあーちゃんの愛猫「ゆき」にキャットフードを与えると、電話がなった。

桐子からだった。

「朝から二回目〜、やっと起きた?マジ」
「4時待ち合わせやからねぇ、よろしくやで〜」
「分かった〜」と受話器を置いたが、あと四時間くらいしかないことに気がついた。

「あちゃー、美容院行こうかと思ったけど無理か、これ」

子供の頃から行きつけのひと回り年上の従姉妹が経営する美容院に電話を入れた。

「今から行って1時間でセットできひん?」
「之子かいな、いきなり、今日は休みや」
「あっ、そうか月曜や、なあ、それなら予約ないやろ、髪やってぇ、今晩同窓会なんやんかぁ」と頼み込む。

「仕方ないなぁ、貸し切り料高いで」
「ええ〜」
「今から、来れる?」
「うん、20分ぐらいで行くわ」
「はいよ」

姉妹みたいに育った従姉は快く引き受けてくれた。之子は軽く牛乳とロールパンで空腹を満たすと身支度を軽く整え、暑さ盛の中自転車に飛び乗った。途中、迎え盆に行けなかった祖父と父の墓に手を合わせ、汗を滲ませながら店に入ったのが正午過ぎ、昼食を済ませた従姉が待っていてくれた。

誰も客の居ない店内で従姉と二人世間話をしながら一時間のはずが、たっぷり二時間話し込み店の時計は午後二時を指していた。

「マズイ、あと2時間やん、ごめん千代ちゃんいぬわ!」
「ほお、そうか、気つけて行きや」

ドタバタと店を後にした。

帰って、シャワーを浴びてもう一回セットして洋服選んでごちゃごちゃしてたら、遅刻確定か!慌てて家を出た。

表通り、約束の場所に、おこまと桐子を乗せたZが待っていた。

「お待たせ~」
「お待たせやないわ、十分遅刻やでぇ、おたけいてへんくて良かったな〜」
「おたけ、クラブ終わってから来るって」
「陸上部の顧問やってるんやっけ」
「そうよ、夏休みもお盆も学校に捧げとるわ」
「また、そんなこと言う」と桐子が言うと
「今頃、くしゃみしとるかな」

之子は、自分が待ち合わせに十分遅刻したことも忘れて、もうソワソワし始めていた。

そういえば、海内洋の家は海内卒業後両親は父親の実家がある岐阜に移り、ここには身内も居ないと噂を聞いたが、何処か民宿にでも宿泊しているのだろうか?

サンルーフから入る生暖かい送り南風(おくりまぜ)にさっきセットしたばかりの髪が流されるのを手で押さえながら 「なあ、サンルーフ閉めへん?髪ボサボサになるわ」と言うと、桐子が「それに暑いわ」と言った。

ポニーテールのまとめ髪のおこまは渋々自慢のサンルーフを閉めた。

エアコンの涼やかな風が届いて、之子と桐子は顔を見合わせて微笑んだ。

途中、買い物をして、「クロスロード」に着いたのは、午後五時前だった。

夏の赤い夕焼けがボンネットを熱くしていた。

つづく


「春恋」

まだあげ初めし前髪の
林檎のものに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と想いけり

やさしく白き手をのべて
林檎を我にあたへしは
薄紅色の秋の実に
人恋初めしはじめなり

ご存知 島崎藤村の「初恋」ですが、この詩曲がつけられ1971年に舟木一夫さんにより歌唱された有名な詩です。林檎の花の開花は桜の開花から二週間後で開花しはじめ、桜は花から葉桜へですが林檎は葉から花へ移り咲きます。小さな薄紅色の花は初恋に恥じらう少女を想わせて、きっと島崎藤村も可憐な林檎の花に春恋しはじめなりの少女を映し詩を詠んだのでしょう。やがて花の命は十日間ほどで過ぎ確実に受粉して赤い玉のような実を結びます。女性の儚さと優しさと強さを男性目線で謳ったとても美しい詩であります。

春恋しはじめた林檎は花の時を終え実を結び秋のおとずれと深まりをその花と実を通して順序良く長く楽しめるます。

林檎の花の花言葉は「優先」「選ばれた恋」です。人恋初めしはじめなりですから、林檎の花は後に実り果実をつけるということに由来しているそうです。

人恋初めしはじめなり…青い春恋が順序を知り成長し実を結びますように✨️🌹

              碧海 曽良

また、今夜  











4/15/2025, 11:14:54 PM