kiliu yoa

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「ねぇ、貴方。憶えていますか。わたしたちが初めて…会った時のことを。」

 あの時の貴方は、どこか寂しげによく微笑む人でした。貴方は、わたしの知りうる、どの男の人よりも凪のように穏やかで優しい人でした。
 そして、今まで知りうる どんな人よりも、貴方は心を見せぬ人でした。

 貴方と初めて逢った、あの日。花蘇芳が咲き乱れる中で行われた、婚礼の儀の後のことを。

 あの時のわたしは、とても不安でした。幼き頃に決まっていた方とは違い、貴方のことも、貴方の一族のことも、貴方の国のことも、なにも聞かされませんでした。
 だからこそ、とても怖くて、恐ろしくて、これからのわたしの人生がどのように変化するのか分からず、不安が募っていきました。

 でも、貴方が婚礼の後、こう云ってくれたのです。
「おなご…だからと、妻…だからと、男の私にむりに付き従わないでほしい。貴女らしく、生きてほしい。一緒に手を取り合い、貴女と生きていきたい」と。

 貴方のその言葉でわたしは、募った不安と緊張が解け出して、涙が頬を伝い落ちました。安堵の涙でした。『嗚呼、この人で本当に良かった。』と、心から思えた時でした。

 だから、花蘇芳が咲くと思い出す。最愛の貴方のとの出逢いのことを、貴方が心を開いてくれたことを、貴方と過ごした幸せな日々を。

7/23/2023, 2:08:30 PM