彗皨

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1年後の私。
「あなたは今何をしていますか?」
そう書いた、未来の自分へ宛てた手紙。
何をしているかなんて、私からしたら愚問だった。
私は今、何もしていない。
それは 無職だとか、そういう訳ではなくて。
私は今、生きるのを拒んでいる。
もっと言えば、私が今を生きているかどうかすら危ういということ。

命が尊いと教えられたのは小学生の頃だ。
道徳の時間に「命の尊さ」を知った。
「貴方は命の尊さをどう考えますか。」道徳のノートにそう書かれていた。
私は、その質問はおかしいと思った。
命は美しい。それは確かだ。
だけど、命の尊さと儚さを、言葉で表現できないから美しいのだと思っている。
私は白紙のノートを提出した。
次の日の朝、先生に「どうして何も書かなかったのか」と説教された。
意味が分からなかった。命は言葉に包めないから美しいのに。真っ白のノートを渡して何が悪いのか。
「分かりません。」と応えた。
「あなた、今日放課後残りなさい。そして、この白紙のノートを埋めなさい。」そう返された。
「分かりました。」私はそう答えるしかなかった。

放課後、私は先生と二人きりの教室で、ひたすら悩んだ。一体何を書けば良いのだろう。
嘘をついてまで、命の尊さを表現しなければならないのか。悩みに悩んで一時間が経過した。
「あなたいつまで書いてるの…って、何も書いてないじゃない!いい加減にしなさい。」声を荒らげて怒られた。
「あなたねぇ、命の尊さを書くだけよ?
難しく考えなくていいの。あなたが思うことでいいの。」
ピンときた。「命の尊さは言葉では表せない」そう書こうとした。すると、
「…言葉で表現できないと言うのは分かるけれど、もう少し質問に反った答えを書いてちょうだい、?」
呆れた声で言われた。
「…じゃあ書けません。」
「…いい加減にして。もう冗談を言う時間は終わりよ。早く書いてくれる?「無駄な時間入らないのよ。」」先生が言った。
私は、私の中で何かが壊れたような気がした。
「無駄な時間」…?私が命について考えてる時間は先生にとっては無駄な時間だった?

私は何かが崩壊したように暴れた。
「あなたっ…ちょっ……と、、、」
真っ白なノートが先生の赤色で埋め尽くされた。
私は、先生に言われた通りノートを埋めて提出した。

「動機は何ですか?」
「分かりません。」
「…では質問を変えます。命を奪った自覚はありますか?」
「…まあ。」

1年後の私は今、刑務所に居る。
生きているのか死んでいるのかも分からない、朦朧とした意識の中 ただじっくり、冷たい床が私の赤色に染まっていくのを見ている。

6/24/2023, 11:34:19 PM