ピンポーン♪
インターフォンが鳴り、ガクガクと包丁を握ったまま
玄関に近付く
「ど、どちら様でしょう……」
『訪問販売でございます。
皆様の"感情"を高額で買取る業者でして、感情一つにつき
1500万円で取引させて頂いてます」
「うちには必要ありせん」
『おやおや。悪くはありませんよ?
自殺や他殺の防止、予防にもなる商品でございます故』
見透かされた?
するりと力の抜けた手から包丁が床に落ちていく
『感情の移植手術を希望される方が多いんですよね、
こんな時代ですから』
#お金より大事なもの
「絆、ねぇ……」
両親はこの名前をどんな気持ちで僕に付けたやら
親権争いを終えて離婚届に判を押す様子に
はぁー、とため息ひとつ
#絆
「たまには、ね」
自分を甘やかす魔法を掛けてBARに寄り道
「お嬢さん、一杯だけご一緒してもいいかい?」
素敵な王子様に出会えて
夢心地になって
魔法が解けて、午前0時
(待って待って、誰よ、この人!!!)
知らない男と裸でベッドを共にしている現実に
唖然呆然、おまけに愕然
#たまには
大好きな君に「大好き」って言えないのは
なんでだろう
髪にポンッて手を置いただけで……
「またチビとかデブとか揶揄うつもりでしょー!」
「ふんっ」
ほらね
顔、真っ赤にしてスゲェ可愛いのに
憎まれ口にあっかんべーで返しちゃう
#大好きな君に
(間違いない。オレには見えたんだ)
荒波に揺れる船上で航海士は望遠鏡をギュッと掴んだ
「せーんちょ、脂汗も程々にして下さいよー。
ギトギトネバネバ、うはぁ、加齢臭も混ざって。あーあ」
「うっさいわ! 脂汗も出やしねーよ。
遭難で暗礁地帯で沈没ルートまっしぐら、右も左も絶望で
全部干涸びてるぜ」
「航路が見えた、と言ったら潤います?」
「なんだと?」
「たった1つの希望 (北極星) が
オレ達にウィンクしてましてね……。
無視するには惜しいくらいのとびきりの美女なもんで、
身綺麗にしませんと秒でフラれます」
「は、ははっ! それを早く言え航海士! して方向は?」
航海士は迷いなく右を差す
「涎が出らぁ。美女を抱きに行くぞ、面舵いっぱーい!」
#たった1つの希望