荒れ狂う風雨が窓を叩く

　あの日から嵐の渦中だ

　僕は人魚に恋をした

　だから、声の出ない美しい人の娘が現れたとしても

　恋をすることはなかった

　鈍感にも程がある

　愛した人魚が自分のために泡になったのだとしたら

　同じ様に泡になりたいと願うのは

　許されないことかな


#泡になりたい

　蝉の声と向日葵と氷たっぷりのマイボトル
　畑で採れたからって西瓜もらって、自転車漕いで30分

「マジであちぃ……。
今年も墓参りに来たぜ、タカシ！」

　応える声の代わりに
　真夏の日差しが燦々と降り注いだ


#ただいま、夏

　フラれたからって、そんな顔すんな……。

　渡したサイダーを握りしめたままの君と
「俺がいるだろ？」て蓋も開けられない意気地なし


#ぬるい炭酸と無口な君

『本当？ 本当に！？
ケンちゃん、8月の花火大会には帰って来るの？』
「うん。5年ぶりに」
『やったぁーーーーー！』

　8月の花火大会じゃなくて
　7月の終わり、
　君の事故死の知らせで帰省した


「今日だよ、楽しみにしてた8月の花火大会」

　あの日、電話越しに聞いた君の声が
　今でもずっと耳の奥に残ってる


#8月、君に会いたい

　虹のはじまりを探してパンクした自転車を漕ぐ


「ちょっ！ はあはあっ。なんで上り坂ばっかなんだよっ」
「はあはあっ。汗ッ、汗が邪魔だっつーの」
「ど……どっちも我が儘だ！」


　アオハルなんて、そんなもの


#虹のはじまりを探して