「パパー! 太陽をバックに写真を撮ってね
スーパーヒーローは光を背負うのが格好いいんだっ」
「はいはい」
「ポーズは三通りあるからね!」
「はいはい」
逆光は"子供らしさ"を見事に覆い隠して
ヒーローを演出したが
「……パパ、写真撮るのも下手だね
そんなだからママにも嫌われちゃうんだよ」
そこに居たのは『ダークヒーロー』
写真フォルダを覗きながら
子供は厳しく容赦ない必殺技をキメる
#逆光
月の綺麗な昨夜のこと
告白されてOKを出したばかりなのに
『きみにフラれる夢を見たんだ
夢か現実か……わからなくなってしまってね』
朝一番、電話をしてきた彼
「大好きだよ」
電話越しで笑い
またひとつ愛を重ねる
#こんな夢を見た
人は生まれた瞬間からホットスタート
生き急ぐばかりだ
「タイムマシンがあったら?」
そうだね
過去に行くにしても、未来に行くにしても
"死"から逃れるための
道具にするかもしれないね
-2nd story-
「うおー!タイムマシンがほしー!
失恋を亡きものにしてぇぇぇよぉぉぉー!」
友人がうざいほど吠えている
負け犬の遠吠え?
まぁ、何にしても…
「タイムマシンがあったらぶっ壊す」
「はぁ!? てめぇはトモダチの絶望を無視すんのか?」
友人は信じられないとばかりに目を丸くするが
「お前の一喜一憂を傍で眺めているのが俺の幸せ?」
現在より尊いものはない
#タイムマシン
部活帰りの30分弱
一緒にシリウスを眺めて白息と笑い声
"好きだよ"
とは、恥ずかしくて言えず
歩いた青春
今思えば
はじめての『特別な夜』だった
#特別な夜
暗い……苦しい……息がッ……
海面から
下へ下へと落ちる浮遊感
浅くなる呼吸に
恐怖が濃くなり意識が遠退いていく
「ッくは!!」
会社のデスクからガバッと顔を上げて
何だ夢だったのか……と
安堵する反面
減る気配のない仕事量と
何杯飲んだのかわからない珈琲の現実は
海の底に落ちゆく恐怖と
何ら変わらない
#海の底