「マニュアルは読んだのか!?」
「わかりません、じゃ済まないんだぞ!」
「聞いてるのか?
泣いてどうにかなるもんじゃないだろうが!」
小さな頃よりも
叱られて泣いて…
「おつかれさまー。ん?目元が赤い?
時間あるなら、一緒にごはん食べに行こっか」
人の優しさに敏感になる
大人の入り口
#20歳
「お月様、怪獣に齧られちゃったの!?」
三日月を見て
可愛らしい感想を言っていた息子が
「月のサイクルを見てるとさ
一番、繊細で綺麗な月明かりだと思うんだよ」
望遠鏡を覗き込み
大人びた顔で欠けた月に笑んでいる
「昔は満月が大好きだったのに?」
欠けてしまった『あの頃』が寂しくて
少しだけ意地悪な発言をしたら
「あはは。ウサギを狙う怪獣はいないって
そりゃあ知ってるからね」
可愛らしく返された
#三日月
急に降り出した雨と仕事の失敗と
下向きに歩く歩道橋
「ツイてねぇ日だな…」
ずぶ濡れになりながら立ち止まると
被ったフードからポタポタ落ちる雫越しに
交差点
色とりどりの傘が
花を咲かしているかのように見えた
「花に癒されるってこんな感じ?」
ネガティブな気持ちが
ほんの少しだけ、和らいだ
#色とりどり
鉛色の空から降り出した雪は
あっという間にアスファルトを白く染めた
「いつまで泣いているの?」
きみの頬を伝う涙も
積もり積もってきみの心を黒く染めていた
「少しは頼って欲しいんだよ…」
僕の気持ちで
雪みたいに
心の黒が溶けたらいいのに
-2nd story-
「誰だよっ!アイス買って来いと言ったのに
雪見だいふく一個だけ買って来た馬鹿はー!!」
こたつの中央にポツンと『雪見だいふく』
それを囲む三人は
ジャンケンをする覚悟を固める
#雪
冬の星座の下で
誰の歌かもわからないラブソングを口遊みながら
手を繋いで、君と一緒に歩く
特に何があるってわけじゃないから
日常の1ピース
「ちょっと遠回りして帰ろうか」
「うん」
だけど
欠けたら完成しないパズルの"大切"
知らないようでいて
知っている
君との幸せなひとときを
#君と一緒に