「えーっと"おおぞら"君…かな?」
「いえ違います。"そら"です、おれの名前」
「あ、すみませんっ」
陰キャで目立たないタイプも手伝って
繰り返される名前の呼び間違い
ギリッと奥歯を噛む横で
父が囁いた
「んとねー。"輝来"って書いて"きらら"にしようかと
ママとすっごく迷ったんだよね」
こめかみがピクッとしたのは
仕方ないよねぇ?
#大空
非常ベルが鳴り響く
サンタの格好をした俺は子供を抱えて走っていた
「くっそー!絶対に死なせねぇぞっ」
クリスマスに火事だなんて有り得ねぇ…
イルミネーションを台無しにする黒煙と業火に
舌打ちする
「お兄ちゃん…怖いよぉ」
「大丈夫だよ。パパやママに喜びを届けるのは
サンタクロースの仕事なんだから!俺を信じてくれ」
突破口はもう見えている
あと少しの辛抱だ
#ベルの音
「昨夜は帰りが遅くなってごめんよ?
ほらほらぁ、きみの好きなケーキを買って来たから…
機嫌直して?…寂しかったでしょ?なーんて♡」
可愛らしくウィンクする旦那に内心げっそり
"寂しさ"の押し売りをするとき
大概は『疚しい何か』があると決まってる
「寂しかったーって言わせたいなら
昨夜はどんな女性(ひと)と浮気してたのか教えて?」
「え…。何で知ってるの!?」
それ見たことかー!!(怒)
#寂しさ
寒いー!寒いー!と言いながら
缶ビールをぐい呑みして
オリオン座を見上げながら歩くのも
今年で何年経ったかな
「来年の冬は一緒にならない?」
「えー?」
「ん、なんでもな〜い」
鼻がちょっと赤くなったのは
ビールと寒さの所為にしとこーっと
#冬は一緒に
彼女のお喋りはとても長い
30分でも1時間でも「聞いて聞いて〜」と
楽しそうに話す
他の人なら『くだらない』って
片付けてしまうだろう話の内容だと思うけど
俺は
その"とりとめのない話"を伝えようとする
彼女の顔も声も好き
それにね
"とりとめのない話"に結論を導き出せるのは
理路整然とまとめられる俺の
得意分野なんだ
#とりとめのない話