「やあ!」
揺れるポニーテールに少し高めの声
笑い方が独特で
いつも僕を見ると朝の挨拶は
笑顔と
制服のスカートを翻しながら
駆け寄ってくるあの子
「ん、おはよう」
何でもないフリをしながら
恋心を募らせるのは
そろそろ限界かもしれない…
#何でもないフリ
「おれ、遂に彼女ができましたー!」
(お、おま、お前ぇぇぇ!)
(涙ながらにハグしたあの日は何だった!?)
(チクショー!裏切りやがったぁぁ)
『彼女いない歴=年齢』の残る男達は
"仲間=思い込み"という個人的かつ勝手な幻想を
抱いていたのだと
一人のめでたい告白で深く思い知る
「くそー!かんぱーい!!」
ビールジョッキを一気飲みするタイミングは
1秒もズレはしなかったけれど
#仲間
ガシッ!
思わず横を歩く見知らぬ人と
手を繋いでしまった
旅先の吊り橋
「あはは。これも縁だし一緒に行く?」
「すすすす、すみません!」
ぐらぐらした怖さは
ギュッと繋いでくれた手のひらの
温もりと優しさで
安心は恋に
前へ前へと歩き出した
-2nd story-
手を繋いでしまったら
手を離すのが惜しくなる人と
「ずっと一緒に居るべきなんだよ」
#手を繋いで
「うぉぉぉぉ!
なんで簡単な言葉なのに言えねぇんだぁぁぁ!」
二世帯住宅で同居していた兄のお嫁さんが
猫のチコと実家に帰って行った
「後悔するなら謝りに行きなよ…」
新婚生活も早半年、実家暮らし一ヶ月
泣きながら嘆く兄を見て助言する
『ありがとう、ごめんね』は
簡単じゃない重みがあると思うよ
兄の涙は滝のように流れていたから
珈琲と一緒に本音は飲み込んだ
#ありがとう、ごめんね
部屋の片隅で
スマートフォンを片手に
顔を真っ赤にしながら一生懸命に
誰かと話す娘を眺める
「もうすぐクリスマスだもんね」
誰と話していたの?だなんて
野暮なことは訊かないよ
イルミネーションみたいな
煌びやかで優しい恋をしなさいね
-2nd story-
部屋の片隅で震える子猫
「お…おいでおいで〜。怖くないからっ」
猫は飼うなと反対した手前
家族が寝静まってからしか触れない
本当は大好きなんだ
愛おしさも、失う怖さも知っているから
反対していたんだよ…
#部屋の片隅で