ガシッ!
思わず横を歩く見知らぬ人と
手を繋いでしまった
旅先の吊り橋
「あはは。これも縁だし一緒に行く?」
「すすすす、すみません!」
ぐらぐらした怖さは
ギュッと繋いでくれた手のひらの
温もりと優しさで
安心は恋に
前へ前へと歩き出した
-2nd story-
手を繋いでしまったら
手を離すのが惜しくなる人と
「ずっと一緒に居るべきなんだよ」
#手を繋いで
「うぉぉぉぉ!
なんで簡単な言葉なのに言えねぇんだぁぁぁ!」
二世帯住宅で同居していた兄のお嫁さんが
猫のチコと実家に帰って行った
「後悔するなら謝りに行きなよ…」
新婚生活も早半年、実家暮らし一ヶ月
泣きながら嘆く兄を見て助言する
『ありがとう、ごめんね』は
簡単じゃない重みがあると思うよ
兄の涙は滝のように流れていたから
珈琲と一緒に本音は飲み込んだ
#ありがとう、ごめんね
部屋の片隅で
スマートフォンを片手に
顔を真っ赤にしながら一生懸命に
誰かと話す娘を眺める
「もうすぐクリスマスだもんね」
誰と話していたの?だなんて
野暮なことは訊かないよ
イルミネーションみたいな
煌びやかで優しい恋をしなさいね
-2nd story-
部屋の片隅で震える子猫
「お…おいでおいで〜。怖くないからっ」
猫は飼うなと反対した手前
家族が寝静まってからしか触れない
本当は大好きなんだ
愛おしさも、失う怖さも知っているから
反対していたんだよ…
#部屋の片隅で
「おれは今から蝙蝠だぁー」
ちゃめっ気たっぷりに兄は言いながら
少し高い鉄棒でぶらぶら
「今度こそー!見てろよっ」
何度も失敗した逆上がり
半分だけ逆さまで見上げた空は
涙で滲んだ青だった
ぐるんっと全回転した逆上がり
着地して見上げた空は
吸い込まれそうなオレンジと
兄のガッツポーズ
今でも思い出す
青春の彩り
#逆さま
眠れないほど興奮した昨夜は
何だったのだろう…?
「あー…飯でも食いに行きます?」
「え、あ、そっすよね!じゃあ行きましょう」
オンラインゲームで知り合った人と
初めてリアルで顔合わせした
お互いが"ネカマ"である事実を知り
挙動不審
そして、女子トークした日々を憂いながら
街中に流れるクリスマスソングに
耳を傾けていた
#眠れないほど