線香花火の火種が"ぽとん"と落ちるとき
気持ちまで"ぽとん"と落ちるから
花火セットの最後に
線香花火の束を残すのが嫌いだった
「蕾、牡丹、松葉、散り菊…」
隣にしゃがむ甚平姿の彼が
大きな手に小さな線香花火を持ちながら、はにかむ
「甚平の雰囲気に合う花の名前だね」
バケツの水に"ぽとん"
燃えカスを落としながら応えた
「いや、そうじゃなくてさ
線香花火の火種には花を咲かす順番があって
花束を作ってる気持ちになるなーって」
思いも寄らない言葉に"ぽとん"
心に温もり
気持ちはゆらり暖色に灯された
#心の灯火
夜景が自慢のレストランで君とディナー
「幼稚園の頃は向かい合わせでお弁当食べてたのにね」
素敵でお洒落になったね、と
君はクスクス笑う
右のポケットに隠しているのは
ビスケットではなくてエンゲージリングだ
(ブブブ…ブブブ…)
左のポケットで
スマホが幾度も振動している
恐らくは仕事のLINEだろう
いつまでも子供じゃない
立場的に
開かなきゃならないのはわかっていた
#開けないLINE
"ひとつのパーツが欠けている"
"身体の一部が動かない"
"感情が故障している"
ボロボロだ、欠陥品だと
ゴミ捨て場に投げ捨てたれた日の夜
「大丈夫。君はこれからヒーローになれるよ」
差し伸べられた手と不確かな希望が降り注いだ
それは
完全なる満月と呼応して
煌々と輝いていた
-2nd story-
「貴女はお留守番よ、シンデレラ!舞踏会へは行けないわ!」
継母と姉に弾き飛ばされて床に転がる
歯を食いしばって虐めに耐える顔を作ろうとしたところで
芝居は中断
皆んなに頭を撫でられた
「こんな可愛い子を虐めるのが辛い、耐えられない!」
「はぁ!?」
完全なシンデレラを演じられる日は来るのか?
代役で不完全な僕は困惑した
#不完全な僕
「へい!味噌ラーメンと炒飯セットお待ちっ」
お気に入りのラーメン屋さん
780円のお得セット到着に割り箸準備よし!
「店主、角煮ラーメン」
フワッ
隣の椅子に腰掛けた男から
強烈な香水の匂いがした
パキィィィ
力強く割れる割り箸
「店主ー!追加トッピングで"ニンニク"お願いします!」
ラーメンに罪は無い
だが、唯ならぬ殺意を抱いた
#香水
言葉はいらない、ただ…
「おい、黙れ!問題集に集中しろ」
「出来ないよぉ。だって先生、めっちゃ格好良いんだもーん」
バイト先で、頬を膨らませる問題児と対立
胃がキリキリと痛む
「終わったらアイス奢るから頑張れ」
「やーん、がんばる♡」
定期テストまであと二週間
頼むから勉強してくれ