自由奔放に飛ぶ"モンシロチョウ"が、あの子のランドセルに止まる。
狡いぞ、オマエ!
ぼくがオマエより早く見つけていたんだぞ?
ポカポカあったかいあの子はね、お日様みたいなんだ。
高校に近い最寄駅へは、降りる人より乗る人が多い2駅に停車してから到着する。
満員電車でギュウギュウに押し込められるのは毎日だ。
でも、
押された拍子にブラウス越しの膨らみに手
揺れた拍子にスカートから太腿に入り込む手
背後から『痴漢』に遭ったのは初めて。
肌の感触を弄ぶ手が、太腿からショーツに差し掛かる。
恥辱と我慢の限界だった。
「こら痴漢!股間蹴り上げてあげようか?逃がさないよっ」
ガシッと痴漢の手を捻り上げた…つもりだった。
「股間…て、え?佐々木さん?」
掴んだ手とその声に固まる。
痴漢は開いたドアから逃げて行った。
「あわわわわ」
顎が外れたように言葉も出ない。
私は…
恋する先輩の手を鷲掴みにしていた。
#忘れられない、いつまでも
お前との友情は終わりだ。
突然だった。
僕の親友は関係を切り、去って行った。
"一年後"
元親友はとても美しい女性となって戻って来た。
僕の好み、ドストライク。
「もう二度と手放さないから」
あっという間に相思相愛の関係に結ばれる。
たった一年、されど一年。
身も心も関係も、移ろうには十分な時の経過だった。
「パパとママがいないって…迷子?」
「わ!泣かないで。ね?一緒に探してあげるから」
泣き止まないからと、手渡してくれた"りんご飴"がとても大きくて甘かったこと。
そのひとが持っていた"かき氷"がレモン色だったこと。
ドーンドーンと打ち上げられる"大輪の花火"を一緒に見上げたこと。
繋いでくれた左手に"温もり"と"震え"があったこと。
『おもいで』が、ふわり揺蕩うのは初夏のはじまり。
今年も遠くから打ち上げ花火の音が鳴り響く。
胸に手を当てる。
この残響は"初恋"と呼んでもいいのかな…
#初恋の日
"明日、世界がおわる"
たった今、緊急消滅速報が世界規模で発令された。
ガタンゴトンと規則正しい音に揺れる車内、騒めく乗客。
吊り革に体重を預ける俺は冷や汗を滲ませていた。
3時に食べた和菓子が腐っていたらしい。
ぐきゅるる〜
腸が阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
世界より先に、俺の腹がおわる。
「助けてくれ…」
スーパーヒーローに世界の救出を願うより
2分後に到着する駅のトイレを思い浮かべ、腹の平穏を願った。