誰にも言えない秘密
小さい頃は喧嘩すると
血気盛んな子たちがよく口にするのを聞いた。
決まり文句みたいなもので、
誰かがそれを実行するなんて
微塵も思ってなかった。
私だけでなく誰もがそう思っていたと思う。
誰もが悪いことだとわかっている。
だから私は心の底からそれを願ってしまったとき
自分の性根が腐っているからだと自分を責めた。
ある日たくさんの人に慕われている
誰よりも優しそうに見えたその人から
あんな話を聞くなんて。
驚いた。
自分の気持ちに正直に生きれば
心も濁らず身軽に過ごせると聞いたことがあるけれど
あれも当たり前の気持ちなのだろうか。
狭い部屋
大掃除をした。
自分の持ち物を把握するためにも
しまってあるものを一度全部出してきて並べた。
まず、毎度のことながら
あちこちからお札や小銭が出てきた。
ずぼらな私が大掃除をすることができるのは
これがあるからだ。
普段あちこちにしまってしまうのもやめられない。
もう捨てたと思っていた半袖も出てきた。
首元が少しへたれてきているが
気に入っていたものなので何度か着ようと思う。
狭い部屋なのに
何があるのか把握できてないことに
我ながら呆れた。
失恋
同じ言語を話しているから
きっと言葉は伝わるはずだと信じていた
自分の気持ちを口で説明できるように努めてきた
でも、上達すればするほど気づいてしまった
同じ言葉を発したとしても
その意味は人によって違うということに
君と僕は似ている部分も多い
同じ文化圏に生まれ
何年も一緒に同じものを食べて過ごした
お互いに好き合っていたと思う
だからこそ話せば分かると思ってしまった
どこで間違ってしまったんだろう
傷つけ合うことに疲れてしまったんだ
どんなに愛していても
そこに憎しみが混ざってしまったから
僕らはもう離れた方がいいと思うんだ
正直
正直さあ、
ぶっちゃけ、
こういう前置きが嫌いだ。
その前置きがないと話せないことは、
言うなよと思う。
何でも話せる相手はいらない。
とっておきの秘密話が明るく温かなものだった、
なんてことは一度もなかったし、
もしポジティブなものだったとしても、
一緒に喜べる自信はないから。
サンドバッグは卒業してやる。
梅雨
梅雨でもないのに雨の日が続いた。
体調を崩す日も続いた。
原因はよく分からなかった。
頭痛、吐き気、冷え、立ちくらみ……。
湿気のせいかなと思った。
雨が憎たらしく思えてきた。
腹が立って仕方なかった。
まだ梅雨でないということが怖くなった。
でも違った。
ちゃんとご飯食べて散歩したら治った。
ごめん、雨のせいじゃなかった。
梅雨がきても大丈夫だ。
それでも、少ししんどいから、
出来るだけゆっくり来て、早く行ってね。