吐いた息が白くかたまって、彩度の低い空へほどけていく。
赤くなった指先をポケットの中へ潜り込ませる。
明日の朝は布団から抜け出せるか危ういな、と考えながら、半ば呆けて天気予報を眺める。
行き交う人は着膨れて、往来は窮屈そうに見える。
目の覚めるような鮮烈な赤や、深みのある落ち着いた緑が街角に増える。
それはきっと冬の足音だ。
やわらかくて、ちいさくて、胸が痛くなるほどいっしょうけんめいないのち。泣きたくなる。
/子猫
あなたは確かにそう言ったのだ。
灰色の空の下、雑踏の隙間をすり抜け、ようやく静かになったその場所で。
それは約束だと、愚かにも信じてやまなかった。
盲信していうちに、あなたはこの世に愛想を尽かしてしまった。
今もまだ、心臓の穴は埋まらない。
だからこそ、まだ約束を信じている。
それがたとえ来世などではなくとも、おなじ地獄の釜の中だとしても。
/また会いましょう
刺激を求めている者は少なくない。
舌を出してそれを待つ者も。
そしてそこで生まれた愚行のツケが、
全うにやっている者へ回ることがある。
おつかれさまでした。また明日。
また明日、また明日。
また、明日がきたら良いですね。
/スリル
君には翼がある。
偉い大人が口を揃えて、馬鹿の一つ覚えよろしく吹聴するのを馬鹿馬鹿しいと思っていた。
不特定多数の若者へ夢と希望を与え、士気を駆り立てるための方便として上手く言ったものだと。
そんな生意気な子供だった自分も、気付けば大人になってしまった。通ってきたはずの道を今まさに歩む学生なんかを見ると目が眩むようで、なるほど確かに翼も見えようと思った。
それ以上に厄介なのは、自分と同じかそれ以上に歳を重ねているはずの数多の背中に、それはそれは大きな翼を見ることだ。
彼らは思い思いの空を駆けるべくしてその翼を得たのだろう。自分はどうだ。この背中に羽はあるか。
恐ろしくて、見てみようとも思わない。
そうして俯いてばかりいるから気がつかないのだ、などという説教を聞いたこともある気がするが、正直どうでもよかった。
空を飛びたいでもない自分に翼は手に余る。十二分に恵まれたこの体で生きてさえいれば、それだけでいい。
時にそれは言い訳じみて聞こえるだろう。しかしこれが自分の精一杯であり、どうしようもない生命だ。
翼を持つ君よ、どうか気付くなかれ。
空を飛ぶには頼りなく、捨て置くには惜しいその翼に。
傷付こうとも背負い続けた大きな翼の重みに。
君には翼があるのだ。
/飛べない翼