「文系科目なんてやる意味あんの?」
「歴史とか覚えて将来使うの?」
声が変わり始めたガサガサ声の少年は言った。
少年は自然科学の実験が大好きだった。
魔法のような現象には明確に理由が存在し、手順を守れば誰でも魔法を使えるのだ。それは面白いだろう。
少年はパズルが大好きだった。たったひとつだけの正解に自分の力だけで辿り着けた時の達成感はたまらない。人より早く解ければ更に快感は増すだろう。
だから少年からそんな言葉が出るのは時間の問題だったのだろう。
そんな少年に私はある言葉を授けた。
「信仰なき科学は不完全であり、
科学なき信仰は盲目である。」
これは天才物理学者と呼ばれたアルベルト・アインシュタインの言葉である。
少年が好きな魔法は少年の身の回りに溢れ生活を便利にしている。だが、少年の好きな魔法は使い道を間違えば簡単に人を不幸にできる。
魔法がキラキラした魅力を保つには文系科目が持つ思想や歴史が不可欠なのだ。
世界には”知らぬ”が故に起こった不幸が沢山ある。
安全な物に怯えて人を傷つける人達は今も尚絶えない。
不幸の溝に足を取られず道を進むには理系科目が持つ論理や知識が不可欠なのだ。
明確な答えを出せるかどうかで点数を付け評価するという学校教育は理系科目との相性はよく、文系科目への疑問が湧きやすい構造だ。
少年が少年であるうちはどちらも注視するのは難しいだろう。大人と呼ばれるようになった私ですらそれは難しい。
でも少年、見ていない方向にあるものを無視したり卑下したりしては絶対にいけないよ。
少年は完全には腑に落ちていない様子だったが何かは伝わったようだ。
少し説教ぽくなってしまったな。あとで少年の好きなお菓子でも買ってあげるとしよう。
大きなヒビがいくつも入ったワタシは、突然大きな音をたてて形を保つ事をやめた。
ドロドロと“ジブン”が溢れだし、ワタシの中にはもうわずかしか残っていなかった。
ここはどんな形だったんだろう。こんな形だっただろうか。
ワタシをどうにか直そうと試みる。
地面に広がり染み込んでいってしまいそうな“ジブン”を泥ごとワタシに戻す。
わずかに残った“ジブン”は戻した泥混じりの“ジブン”と合わさって今まで見た事もない色になっていく。
ワタシはどんな色だっただろうか。“ジブン”はどのくらい入っていたんだろうか。
ワタシがこんなんになるなんて考えてもいなかった。
だからワタシがどんな様だったかなんて詳しくは覚えていなかった。
知ろうともしなかった。
元通りになっていない事だけが確かな醜いワタシを見ながら泣いた。
ワタシがどんなだったか、きっと覚えているどこかの誰かにこの声が届くように、
力の限り大きな声で、
意識が無くなるまでいつまでも、
大きく、永く、 泣き叫んだ。
天から“負”が降ってくる。
地面を叩く無数の音が鳴り続く。
人の造った物が揺られ、それに耐えようと歯ぎしりの音も聞こえる。
大きな天に抗うべく私はカサを差す。
しかし、横に流された“負”は無情に背中を刺し続ける。
逃げるように前に走れば今度は正面からぶつかってきた。
カサは“負”を防ぎきるにはあまりにも小さくもろかった。
すぐにカサは役立たずになった。
私が少しずつ削られ、えぐられ、溶けてゆく。
私はそれでも“負”に耐え天の下、強い光を待っている。
我々は精鋭部隊だ。
鍛錬を重ねた優秀な兵が3億。もちろん全員が成果を上げられるわけではない。だが、我々が勝利を勝ち取るには十分すぎる兵力であろう。
司令部より侵攻せよとの命が下る。
我々は早急に基地を出立。もちろん、準備は全員万端である。
我々は精鋭部隊。全員が屈強で俊敏である。戦地まで全員が駆け足で向かう。勝利を疑うものなどいないであろう。
戦地に向け、我々は長い洞窟を抜ける事になった。だが我々は精鋭部隊。勢いに任せ駆け抜ける。
光が見えてきた。さぁ戦いだ。
我々は精鋭部隊。指揮が上がる。全兵がその勢いを更に増し、一気に戦地へ。
気づけばそこはティッシュの上であった。
我々は精鋭部隊。しかしまさかの敗北に終わるのであった。