スカイランタンのイベントが行われていた。気球みたいなランタンを空に飛ばすあれだ。
そのイベントの概要に、不思議なことが書かれていた。
『短冊に忘れたいことを書いて、空に飛ばしてしまいましょう』
こういうのって、願い事を書くんじゃなく?
まぁ忘れてしまいたいこともあったし、面白そうだし、何より空を舞うたくさんのランタンは綺麗だろうと、参加することに決めた。
願い事を書いた短冊をランタンに貼り付け、放つ為の会場へ移動する。
みんな恥ずかしかったことでも書いているのか、短冊が見えないよう隠している人が多かった。
日が暮れて、ライトを灯したランタンが一斉に放たれた。カラフルなLEDの灯りに、ヘリウムガスで飛ばされているので、空は様々な色で覆い尽くされた。
なんて綺麗だろう……。
その光景を見ているうちに、短冊に書いたことだけでなく、ランタンを飛ばしたことも、自分がなぜここにいるのかすらも忘れてしまったのだ。
『記憶のランタン』
すっかり肌寒くなってきて、もうすぐ君の出番ですね。
頼りない僕を、いつも助けてくれてありがとう。
僕は、今年どうだったかな? 少しくらいはちゃんと役目を果たすことができたかな?
ここからは君が頑張ってね。僕が言うことじゃないかもしれないけど。
僕は君の季節も楽しみにしてるよ。
また来年会いましょう。
秋より
『冬へ』
月が君を照らしていた。
雲の隙間から顔を覗かせた月が、まるで君だけのスポットライトのように、ぽっかりと。
そんなことがあるのだろうか? 君は月の精のように見えた。
儚く笑う君は、今にも月に帰っていきそうで。
思わずそっと優しく抱き締めた。
『君を照らす月』
誰も来ないような薄暗い森の中、一人突っ立っていた。
風が吹いて、木を揺らしていく。
木々の間から木漏れ日が照らし、一瞬視界を白く眩ませる。何も見えない。
ただ、ざわざわと騒ぐ木々の声が、耳を掠めていく。
感じるのはその音と、木漏れ日の暖かさだけだった。
それが体を包み込んでくるから、まるで慰めのようにも感じて、悔しくて。
木漏れ日の下で、しばらく泣いた。
気付けば、いつしか光は去ってしまっていたが、暖かさが跡をつけたように、心を照らしていた。
『木漏れ日の跡』
「大きくなったらパパと結婚するー!」
「パパとは結婚できないんだぞ。パパにはママがいるからね」
「やだー! 結婚するの。約束して、パパ!」
そんな娘の頭を撫でて宥めていたのはどれくらい昔のことか。
大きくなった娘は、俺とじゃなく、娘自身が見つけた素敵な男と結婚する。心底嬉しそうな笑顔で、涙を浮かべている。
俺の目頭にも熱いものが込み上げてくる。
ささやかな約束は、果たされない。誰よりも幸せになれ。
『ささやかな約束』