灯りが暗闇を煌々と照らす。
この光は、僕らの希望だ。僕ら明るく照らす、一筋の光だ。だって、こんなにも心まで明るくしてくれる。
「うおおおおお! 騒ぐぞー!」
「おぉー!」
雄叫びを上げる。
楽し過ぎる。みんなで囲うキャンプファイヤー。
『灯火を囲んで』
冬だ。冬がやって来た。
冬を迎える支度をする。ゆっくり眠る為、食べ物を部屋にたくさん集めた。
「いつまでこもってるの! いい加減部屋を出て働きなさい!」
あーあー何も聞こえない。
さて、冬眠を始めよう。春までおやすみなさい。
『冬支度』
それはまるでスローモーションのように。
頭上から鉄板が落ちてくる。その後どうなるか理解した瞬間、声にならない声で叫んだ。
「時間よ止まってくれ」
時を止めて。そしたら、僕はこの手を伸ばして――。
しかしその願いは届かず、目の前の君の姿が見えなくなった。
叫びながら再び願った。
「時間よ巻き戻ってくれ」
そしたら、今度こそ君を救うのに。
――目の前を、君が楽しそうに歩いている。
何が起きたかわからない。
さっきのは白昼夢だったのか。でも、なんでもいい。君がここにいる。
君に声を掛けようとした瞬間、再び鉄板が空から降ってきた。
駄目だ。また。間に合わない。
時間を止めたい。その願いは叶わない。
しかし――。
また、君が目の前を歩いている。
どうやら、僕の『時間を巻き戻したい』という願いだけが叶っている。
しかし、あまりにも巻き戻る時間が短かった。
どう足掻いても、君の姿は消えてしまう。
これを繰り返すくらいなら、そんなこと願わなければ良かった。こんなに何度も君を苦しめることになるなんて。
前を行く君が笑う。
この瞬間だけを切り取って、時間が止まれば良かったのに。
『時を止めて』
キンモクセイの独特な甘い香り。
その香りに誘われるよう歩いていると、知らない喫茶店に辿り着いた。その名も『喫茶店キンモクセイ』。
こんなところに喫茶店なんてあったっけ? まぁせっかくだし入ってみようかな。
「いらっしゃいませー」
案内された席に座り、辺りを見回す。昔ながらの喫茶店といった雰囲気だ。懐かしさを感じる。居心地が良い。
「ご注文何にしますか? オススメは、この、キンモクセイの花びらがブレンドされた紅茶です」
「じゃあそれを」
しばらくして紅茶が運ばれてきた。私を誘った甘い香りが鼻腔をくすぐる。紅茶を口にすると、秋の風で少し冷えた体を優しく包んでくれた。
「美味しいです」
「ありがとうございます。お好きですもんね、それ」
「え?」
まるで私の好みを知っているかのような口ぶりだ。
「どうして……」
「だって、去年も頼んでましたよね。気に入ってもらえたようで何よりです」
去年?
私は去年もここに来ている? たしかに、この店に入った時に懐かしさを感じだ。それは、私がここに来たことがあるから?
そんなことを考えていると、だんだん眠気がやって来た。それがまた心地良くて、ゆっくりと瞼が落ちていった。
「来年もまたお待ちしております」
遠くで店員の声が聴こえた。
……いつの間にか眠っていたようだ。
公園のベンチで目を覚ました。辺りには一面のキンモクセイ。
キンモクセイ……何かあった気がする。この香りに包まれて、どこか、居心地の良い場所にいたような。
夢でも見ていたのか。
はっきりとは思い出せないが、キンモクセイが香る頃、またあの場所へ辿り着けたらいいなと思う。
『キンモクセイ』
行かないでと願ったのに、神様は聞き入れてくれなかった。どんなに望んでも、連れて行ってしまった。
あの幾千の星の中で、君は輝いている。
いくら伸ばしても届かないとわかっている。それでも、手を伸ばす。
いつか君と逢えますように。
『行かないでと、願ったのに』