中宮雷火

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9/15/2024, 11:29:39 AM

【胡蝶の夢】

ピコン!
LINEの通知が来た。
どうせどうでもいい公式LINEだろうと思い、放っておいたのだが、
ピコン!
またLINEが来た。
何だ?と思い、開いてみると、

「お話しよ?」

久しぶりに君からLINEが来た。
嬉しくって、2時間も会話していた。
こんなに沢山会話できたのはいつ以来だろう。

やがて、
「またね!」
と、お開きの合図がなされた。
「もう起きなきゃね」
ん?
それはどういう意味だ…?
彼女の言っていることがイマイチ分からず考え込んでいた次の瞬間、

僕は天井を眺めていた。
微かに聞こえる鳥のさえずり、
死にたくなるほど眩しい太陽、
7時を指した時計の短針。
それらを認識したとき、僕は理解した。

あれは夢だったんだ。
彼女は3年前に死んでいるから。

9/14/2024, 12:01:40 PM

【命が燃え尽きるまで】

2007/12/01
子供が生まれた。
ああ、我が子ってこんなに可愛いんだな。
産声が聞こえてきたとき、どんなに嬉しかったことか。
遥が無事に元気な赤ちゃんを産んでくれた安堵、
大切な存在がもう一人できた事への喜び。
本当にパパになれるのだろうかという不安。
旦那の役目さえ全うできていない僕が、
パパの役目など果たせるのか。
でも、
「最初からパパになれる人なんていない」
そう君が言ってくれたから。
この命が燃え尽きるまで、妻を、この子を愛したい。
愛してみせる。

あっ、
名前は2人で話し合って、
「海愛(みあ)」にしようと思っている。
僕達には海での思い出がたくさんあるから、
いつか3人で海に行きたいな、なんて考えたり。
とにかく、愛のある子に育ってくれること、
それが何よりの願いだよ。

――――――――――――――――――――

私は高校2年生になったらしい。
「らしい」というのは、私は去年の12月から不登校なので実感が無いということだ。
ただ、最近は少しずつ学校に行き始めていて(というか行かなければ留年してしまう)、
教室に入ることは無いものの保健室登校や別室登校、特別な補講を受けている。
そうしないと、私は留年するらしいのだ。
面倒といえば面倒だが、私をサポートしてくれる先生達に感謝だ。

最近はよく外にも出るようになった。
といっても、楽器店に行くだけなんだけど。
電車で片道30分以上かけて行くのは億劫で、
「近くに楽器店があればなあ…」
なんて考えてしまう。
1年前まではあったのだけど、
色々あって閉店してしまったから…

友達―かのんちゃんしかいないけど―とも会うようになった。
保健室までわざわざ会いに来てくれたり、
この前は一緒に映画館に誘ってくれた。
とても嬉しかった。
だって、今までこんなに話せる友達なんていなかったから。

月並みだが調子を戻している私には、もう一つ熱中していることがある。
オトウサンについて、だ。
オトウサンは、私が3歳のときに病気で亡くなった。
かろうじてある夏の日の記憶は残っているのだが、
もう顔も覚えていないし、声も上手く思い出せない。
手の温もりもリアルに思い出せない。
私がオトウサンについて知っていることは2つ。
1つはミュージシャンだったこと、
もう1つは、お母さんと結婚する数年前から晩年まで、日記をつけていたことだ。
日記は5冊くらいあって、結婚のお話からミュージシャンとしての話、病気の話まで色々と書かれてあった。
特に病気の話は詳しくて、どこの病院に入院していたか、どんな病気だったか事細かに記されていた。
時々、幼い頃の私が日記に登場することもあった。
それを成長した私が読んでいるのだが、
文面でオトウサンに可愛がられていて照れ臭い。

しかし、こうしてオトウサンの事を知る度にある疑問が浮かぶのだ。
なぜ、お母さんはオトウサンの事を全く教えてくれないのだろう?
二人は夫婦だ、お互い険悪な仲であったはずが無いだろう。
思えば、我が家には1枚もオトウサンの写真
が無い。
よくドラマで、亡くなった家族の写真を机とかに立ててあるシーンがあると思うけど、我が家では一切無い。
だから私はオトウサンの顔が分からない。
なぜなのだろう、
お母さんはどことなくオトウサンの話題をタブー視しているように思う。
私がオトウサンの話を聞いたのも、全ておばあちゃんからだ。
お母さんが話してくれたことは一切無い。
そんなに、オトウサンの話をするのが嫌なのか?
何で?
私には抑えられない好奇心があった。

オトウサンの事を知る手がかりは、おばあちゃんから話を聞くことだ。
私は近々、おばあちゃんの家に行ってみようと思う。

――――――――――――――――――――

2010/12/01
僕はもう、駄目かもしれない。
日に日に弱っていくのが分かる。
肩や腰は耐えられないほど痛く、
夜は息苦しくて眠ることが出来ない。
もう末期らしい。
僕はもう、手の施しようが無いらしい。
ああ、
命が燃え尽きるまで、大切な人を愛することができなかった。
遥も、海愛も、両親も、僕は何1つしてやれなかった。
海愛との思い出など、何1つ作ってやれなかった。
みんなで、海行きたかったなあ。
何もしてやれなくて、本当にごめん。

9/13/2024, 12:26:11 PM

【始まりの中の終わり】

午前2時半。
私は小説を書き上げ、背伸びをした。
はぁっ。
疲れたっ。
ここ1ヶ月ほどずっと小説を書き続けていたので、かなり大きな達成感がある。
もう何もしたくない。
でも、まだ全体の見直しとか色々打ち合わせしなければいけないことがあるので、ここで気は抜けない。
でももう何もしたくないっ!
私はファイルを保存してパソコンを閉じた。
そして机に突っ伏した。
はあぁぁ。
小説書きたい…
さっきまで小説を書いていたというのに、何故かそんなことを考えてしまった。
こういうことはよくある。
私は、本当に創作することが大好きなんだろうなぁ。
そんな私が、いちばん好きだと思える。

小学生の時に「読書」という趣味に出会った私は、次第に小説家を志すようになった。
こんな物語があればいいのにな。
こんな人であれたらな。
その理想を押し付けるのに、執筆活動はうってつけだった。
しかし、世の中はそんなに甘くなくて、
「そんなんじゃ、小説家になれないよ?」
なんて言葉は腐る程聞いた。
「センスないね」
「まともな仕事ついたら?」
「いい加減現実見なよ(笑)」
そんなの、言われなくたって理解してる。
悔しいことに、次第にもう一人の私まで罵詈雑言を吐き出すようになった。
それでも、自分のセンスをYesと信じてやってきた。

この前、ちょっとした賞を受賞した。
芥川賞みたいな大きな賞ではないのだけれど、あるコンクールに応募して入賞した。
そのことを知って最初に思ったのは、
「ああ良かった、報われた」ということだった。
周囲の人に、自分に才能を否定され続けたけれど、
私は腐ることなく何年も努力を続けてきて、
そうして掴み取った栄光は何よりも眩しかった。
とはいえ、小説家で生計を立てるのは本当に難しい。
1回受賞したからといって、いきなり億万長者になれるわけではない。
小説家とは、そういう仕事だ。
現に、私は小説家以外にも副業を幾つも行っている。
そうしないと生き抜けることはできない。
それでも、自分が本当にやりたいことができるのなら、
これよりも幸せなことはないだろう。

しばらくぼうっとしていたらしい。
30分も経っているではないか。
もう寝なきゃ…
私はベッドでしばらく眠ることにした。

リビングから寝室に移動するとき、
ふと外の空気を吸いたくなった。
ベランダに出ると少し冷たい風が頭を撫でてくれた。
最近、少しだけ冷えてきたような気がする。
気のせいだろうか。
見下ろすと、若い二人組が歩いているのが見えた。
二人とも大きな荷物を背負っていて重そうだ。
そして仲が良さそう。カップルかな?
私は人間観察が好きだったりする。
他の人も、自分と同じように一喜一憂しながらも毎日を生きていることの不思議。
他の人の生活を想像することが好きだ。
しかしあのカップル、よくこの時間帯に出歩いているな。
私がここに引っ越して3年ほど経つが、この時間帯に外に出れば必ずあの人達と会っているような気がする。
なぜだろう。
そこで私の脳には様々な想像が流れ込んできたが、今は一旦シャットアウトすることにした。
今は睡眠が最優先、生活習慣には気を遣うべき。
私は中に入り、廊下を進み、ベッドに潜り込んだ。
目を瞑り、私は最後にこう思った。
夜が明けるときも、私は一日の終わりにいるのだろうな、と。

9/12/2024, 3:17:26 PM

【殺人崇拝】

⚠今回の物語は過激な内容(グロい系)を扱っております。
苦手な方・不安な方は次回作を楽しみにしていただけると幸いです。

また、今回の物語は前回作『×』と同じ世界観です。
本作を読む前に『×』を読んでいただくと、より世界観への理解が深まると思います。

本作は(タイトルからも分かるように)狂った内容ですので、
世界観への理解が非常に難しいかと思いますが、
「この物語エグい!」と思って頂ければ嬉しいです。







――――――――――――――――――――

私はずっと恋をしている。
彼とは3年前に知り合ってから、ずっと恋仲だ。
しかし、結婚を考えているわけではない。
というか、「結婚」と言われてもピンと来ない。

なぜなら私は、彼を崇拝しているからだ。


「ただいま!」
私は友人との旅行から帰った。
久しぶりの家だ。
彼は微笑んで
「おかえり、待ってたよ」
と、優しく頭を撫でてくれた。
リビングには黒いゴミ袋が2つほど放置されていた。
きっと、私が旅行している間にも『ゴミ』を処理してきたのだろう。
「帰ってきて早々に悪いけど、この後手伝ってくれない?」
私は2つ返事で承諾し、スコップや軍手を用意して、彼とゴミ袋を抱えて外に出た。

山に着いた。
軍手をはめてスコップを持ち、ひたすらに土を掘る。
ある程度掘れたら、ゴミ袋を埋める。
私達の日課だ。
今日も日課をこなしたので、誰にも見られないようにさっさと車に乗り込んだ。
車の中で、彼と色々な話をした。
主に旅行の話。
温泉入ったよ、お土産に和菓子買ってきたよ、そんな話を延々と続けた。
彼はずっと笑顔で私の話を聞いてくれた。
ああ、こんなところに惚れたんだよな。
私は昔の、痛む過去の記憶を思い出した。

実の両親から虐待を受けていた私は、人間関係に飢えていた。
本気で愛してくれる人が居てほしかった。
話を聞いてくれる人が居てほしかった。
とにかく飢えていた。
何とか実家を抜け出して上京した頃に、彼と出会った。
理想の人間だった。
彼は私のことを全て肯定してくれて、
過去のことも全て受け止めてくれて、
本気で愛してくれた。
私も、彼に本気の恋心を持った。
ずうっと、ずうっと一緒に居たい!
初めてそう思えた人だった。

しかし、1つだけ理想と違ったことがあった。
彼は"殺人鬼"だった。
ひっそりと人を殺し、山に埋める。
それを生業としていた。
異常だ。
こんなの、異常だ…!
そんなことくらい私にだって分かった。
しかし、それでも私は彼から離れなかった。
だって、彼に抱いたのは不気味さ・恐怖より
美しさだったから。
人を殺すときの目つき、指先、ナイフで刺すときの顔、
やっていること全てが美しく感じられた。
もっと、いっぱい彼の美しさをこの目で見たいと思った。
やがて彼への気持ちは「恋」から「崇拝」へと変化していった。
彼とは恋人であり、共犯者だ。

家に着いた。
正直、もうクタクタだ。
あくびが何度も出てしまう。
「私、先に寝るね」
そう言って寝室へと向かった。

午後4時。
何だか物音がして目が覚めた。
彼が何かやっているのだろうか。
しかし、こんな時間に起きているとは。
何かあったのだろうか。
まさか…、警察?
私は冷や汗が止まらなかった。
バレた?なんで?
どうしよう…、どうしようどうしよう!
私はパニックになった。
嫌だ、離れたくない!
「キイッッ」
ドアが開いた。
鼓動が高鳴った。
「…っ」
彼だった。
「どうしたの?」
「ううん、ちょっと…嫌な夢見ただけ」
私は安堵した。
良かった…警察じゃ無かった…
そう思ってほっと息をついた瞬間、
頭に鈍痛が走った。
「…ぇ、」
私は痛みに耐えきれず、うずくまった。
痛い、痛いよ…
私はさっきまで頭を押さえていた手を見た。
濡れている。
そして、独特の匂い。
何となく、血だと思った。
暗くて色は見えないけど。
何で血が?どうして?
意味不明な状況に困惑していると、
また鈍痛が走った。
頭、背中、腕、脚。
あらゆるところに硬いものが打ち付けられた。
何、一体?
次第に瞼が重くなっていって、
頭も上手く回らなくなって、
声も発せなくなった。
遂に視界が黒一色に染まり、その中で彼の声が酷く響いた。
「あー、また『ゴミ』捨てなきゃなぁ…」

9/11/2024, 2:28:41 PM

【×】

⚠今回の物語は少しばかり過激な内容(いわゆるグロい系)のものを取り扱っております。
苦手な方・不安な方は次回作を楽しみにしていただけると幸いです。














――――――――――――――――――――

午後3時。
用事を終えて帰路に着いた。
午後3時、鬱陶しい日脚、薄汚れたビルの路地を進み、レンガ造りのアパートへと向かった。
階段を上がっていると、同じアパートの住人とすれ違った。
ここに住む人々は少し冷たくて、
すれ違っただけで鋭い目を向けてくる。 
僕は気にせずに軽く会釈をした。

鍵を開けて自宅に入ると、生臭い匂いが鼻を刺激した。
ああ、『ゴミ』捨ててなかったっけ。
今晩捨てに行こう。
あと消臭スプレーで臭い消しとこう。
そんなことを考えながら、僕は壁掛けカレンダーに×印を書き込んだ。
その後日記を開き、昨日の夕方からのことを書き込んだ。
窓が北に付いているので、部屋には日差しが入りにくい。
でも、それでいいと思う。
暗いほうが好きだ。

午後8時。
僕は『ゴミ』を捨てに山の中へ入った。
スコップで地面に穴を開け、ある程度の大きさになったら『ゴミ』を埋める。
そしてまた土を被せる。
ここ5年ほど、これが一種のルーティンになっている。
『ゴミ』を埋め終えたので、また新しい『ゴミ』を見つけに行こうと思う。

午前4時。
はあ。
『ゴミ』を扱っていたら汚れてしまった。
顔も服も汚れているではないか。
まあ、黒い服を着ているから大丈夫だけど。
僕は手袋をナイロン袋に入れた。
赤い液体が床にポトッと垂れた。
さっき処理した『ゴミ』を黒いゴミ袋に入れ、その上に腰掛けた。
僕は、すっかり枯れてしまった命の上で足を組みながら考えた。
カレンダーに×印つけとかなきゃなぁ。

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