桜井呪理

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1/6/2025, 1:52:03 PM

「君と一緒に」


君と一緒にいたい。

ただ、それだけでよかったのに。



地図にも載らないようなところに、ある村があった。

そこには、子供はほとんどいなかった。

特に女の子は、生贄として殺してしまう。

そんないかれた村だった。

僕は、そこの生贄の少女を管理する役についた。

昔から僕は、感情が乏しかったから。

人が死んでも、悲しまない。

喜怒哀楽が、欠落していた。

何人もの子に恨まれた。

でも。

やっぱりなにも感じなかった。

そんなある日。

新しい贄の子が、僕のところにやってきた。

その子は、殺されると言うのに、底抜けに明るかった。

一緒にいたのは、一年ほどだろうか。

その子は逃げないから、傷つける必要もなかった。

その子といると、冷めてなにも感じないはずの心が、暖かい気なっていく気がした。

その子が贄となる前日。

君は、生きたいと言わなかった。

ただ一言。

小さく。

好きだよ。

と言うだけだった。

その時。

好きだと返せなかった。


そのまま眠った。

いよいよ君を殺すため、崖に落とされる時。

僕の体は、動いていた。

大人の声が聞こえる。

君と、落ちる。

落ちる。

落ちる。

落ちる。

ぶつかる。

地面に擦れて、息も絶え絶えになりながら、僕は絞り出す。

僕も。

好きだよ。

君は、途切れ途切れに言う。

君と

一緒に

明日を

行きたかった

な。

うん。

そうだね。


僕らは、目を瞑った。


1/5/2025, 10:10:41 AM

「幸せとは」

かわいそうにね。

まだ小さいのにね。

かわいそう。

部屋の外から、絶えずそんな声が聞こえる。



暇だなあ。

私は今日も声を漏らす。

だって。

この部屋には、たった2人しかいないんだもの。

隣の部屋では、和気あいあいとした、いろんな声が聞こえる。

ああ、つまらない。

寝っ転がって、本を読むことに疲れた私は、向かい側のあの子に話しかけた。

ねえ、渚。

一緒に遊ぼ。

その子は振り向いて、

いーよ。

と、にっこり笑った。



2人で遊んでいると、外から女の人の声が聞こえた。

あの2人、かわいそうね。

家族にも会いに来てもらえない。

最近ご飯もほとんど食べない。

ほとんど眠ってばっかりだし。

かわいそう。

私達のなにがかわいそうなんだろう。

お母さんとお父さんは、いつも私を殴るか蹴るかしかしない。

ご飯は食べたくないから食べない。

眠いから寝てる。

渚だってそうだ。

同じ境遇だった私たちは、この白い部屋で、すぐに仲良くなった。

変に渚も、馬鹿みたい、と言う顔をしている。

気づいたらもう夜。

私たちは、すぐに眠りについた。

何日かたった夜、急に胸が苦しくなった。

寝れずにいると、また声が聞こえた。

ほんとかわいそうにね。

お医者様は今夜が峠だとおっしゃっているし。

きっともうすぐ

死んじゃうわ。


死ぬ?

だから、こんなに苦しいの?

不安になって、渚に抱きつく。

ねえ、渚。

わたし、たち、しぬの?

だから、わたし、かわいそう、な、の?

渚は、苦しそうに、でも穏やかに笑う。

大丈夫。

僕たち、幸せ、だよ。

誰からも、愛されなくたって。

家族に、好かれなくたって。

大丈夫。

僕がいる。

林檎ちゃん。

ありがとうね。

こんな僕にでも愛をくれて。

白い白い、病室の、僕の心に、光をくれて。

愛してる。

大丈夫。

1人じゃないよ。

死んでも一緒。

ああ。

ありがとう、渚。

わたしも、大好き。

薄れていく意識の中で、私たちは手を繋ぐ。

掠れ切った声で、2人でつぶやいた。

誰が僕たちを不幸と言ったって。

僕たち、私たち







しあわ、せだ、よ










1/4/2025, 4:25:48 AM

「日の出」


太陽を見つめる。

そんなことさえ、僕たちには、夢物語になってしまった。


僕は昔、ある村に住んでいた。

青く美しい水に囲まれ、青々とした木々が広がる、たった一つの村。

そこにいた、たくさんの友達たちと遊び、踊った。

毎日が楽しかった。

だから僕は、日に日に強く思うようになった。

死ぬのが怖い。

僕は体が弱かったから、他の子よりも、早く死ぬんだろう。

なんとなくわかっていた。

もっとみんなと一緒にいたい。

僕の願いは、それだけだった。



森の奥にある薬を飲むと、不老不死になれるらしい。

そんな噂を聞いた。

バカみたいだけど、僕は信じた。

本当はその森には入ってはいけない。

知ってる。

わかってる。

でも、生きたいと言う欲望に、僕は勝てなかった。

みんなが寝静まったころに、村を抜け出した。

死に物狂いで森を駆け抜ける。

辿り着いた先には、小さな小瓶があった。

疲れ果てた体で、小瓶の中身を口に含む。

その途端、目の前が暗くなった。


目を覚ます。

朝だ。

早く戻らなきゃ。

怒られちゃう。

森を出る。

じゅっと音がして、肌が焼けるのがわかった。

あれ?

どうして?

肌を冷やそうと、近くの泉にしゃがみ込む。

なにこれ。

信じられなかった。

そこに写っていたのは、

一匹のゾンビだった。




僕は今日も、森の中にいる。

いや。

僕たちは、森の中にいる。

あの日、いなくなった僕のことを、村総出で探しに来てくれた。

ありがとう。

ほんとに優しいね。

みんなと一緒にいたい。

だから。

僕はみんなに噛みついた。

僕らは日の出ているところにはいけない。

自我のある僕と違って、

みんなは自我がない。

でも大丈夫。

そんなみんなでも、僕は大好きだよ。

歪んで、

つぎはぎだらけになった体で、

僕はみんなを、満面の笑みで抱きしめた。






11/16/2024, 11:05:19 AM

「はなればなれ」

あの子に逢いたい。

涙を流しながら、僕は声を漏らした。




僕は大人が嫌い。

大人は卑怯者だから。

少なくとも、僕たち子供を戦場に繰り出させて、敵をためらわようとするくらいには。

そんな僕は、東部の子供兵の落ちこぼれだった。

みんな、勇敢に戦っている。

僕より小さい子ですらも。

みんないかれてる。

僕は血が怖いよ。

いたいのが怖いよ。

ああ、あの子がいればなあ。

僕のたった1人の友達。

同じ戦場で出会い、僕たちは仲良くなった。

でも。

彼女は僕を庇って死んだ。

毒矢で打たれて。

痛かったよね。

辛かったよね。

ごめん。

ごめんね。

君に逢いたいよ。

なんで一生一緒が叶わないんだろう。

なんではなればなれになるんだろう。

この世界が嫌いだ。

ナイフを手に取る。

はなればなれになるくらいなら。

僕は潔く逝こう。

今まで1人にさせてごめんね。

あっち側で会えるかわかんないけど。

もしまた君の近くに生まれ変われたら。

今度は君を愛させてね。

僕はナイフを首に当てた。

最後に。

愛してるよ。

蚊の鳴くような声で、僕は血を見つめた。

10/26/2024, 2:39:27 AM

僕が手を繋いでいるのは、僕の友達だ。

君はそう思ってはくれないけど、友達だ。


あの子が病気にかかった。

記憶を失う病気。

何かの表紙に記憶が消えて、決まったことが抜け落ちてしまうらしい。

あの子が失うことになったものは、

友達との記憶。

君に友達はいっぱいいたのに。

記憶がなくなって、みんな離れていってしまった。

でも。

僕は、僕だけは、君の友達でいたい。

誰も信頼できる人がいない、人間不信だった僕に手を差し伸べて、人と話せるようにしてくれたのは、他でもない君なのだから。

親のいないお互い。

ずっと一緒だと決めたんだから。


今日も君は僕に言う。



       「誰ですか?」


僕は笑顔で、


    「僕は亮太。友達になろ?」
                と返す。

いつか君の病気が治るかもしれない。

もしかしたら一生治らないかもしれない。

どっちでもいい。

僕が君のことを守るから。

でも。

君を好きだと言う気持ちが、

小さな恋心が、

届かないのは、

少し悲しいかな。

きっと届かないとわかっていても。

小さな声でつぶやいた。








   
       「大好きだよ」

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