私がまだ10歳だった頃。
4歳の妹、真幸と二人でおつかいに行った。
お母さんは、忙しくて行けないから二人で、
すぐそこの商店街に、人参とジャガイモを買いに行った。お金を多めに渡され、お釣りはお菓子を買ってきて良いと言われた。
八百屋から駄菓子屋に行く途中。
横断歩道。赤信号。
片手には10歳の私の、片手では重たい、人参4本とジャガイモ6つが入った袋。
もう片方の手は、元気の良い、好奇心旺盛の4歳の妹。流石の妹でも4歳、大丈夫だろうと完全に油断していた。
信号が青になる。
その瞬間妹が、向かいの駄菓子屋に駆けだした。
その時、信号無視してきた、居眠り運転の若い男が乗った車が凄いスピードで突っ込んできた。
この瞬間は恐らく一生忘れられない。
私は尻もちついて、後ろに倒れ、
妹は車に思いっきりぶつかった。
車は、すぐには止まらず、
妹にぶつかった振動で起き、
ブレーキを掛けるまで止まらなかった。
私はなにが起こったのか理解できず、
ずっと尻もちを付いていた。
妹の血らしき、赤い水溜まりがじわじわ広がっている。
哀しいと言うより、怒りというより、
絶望に近かった。もうだめなのだ。
10歳の私でも、これは駄目だ。助からない。と分かっていた。分かっていたけど諦められなかった。すぐに駆け寄ってあげたかった。だけど怖くて動けない。私は画にかいたかのように、怯えていたのだ。
結局、私は何もできなかった。
このことを今でも後悔している。
あの時、手を離さなかったら。
あんなことにはなって居なくて、
今頃、妹の結婚式に呼ばれちゃったりして。
楽しく過ごせてたのかな。なんて、
今、私が握っている、この小さな命。
あの時みたいになってたまるか。
絶対あんな事にはしない。
「ママ、痛い。」
「あら、ごめんね。」
絶対、絶対、幸せにしてあげるからね。
お題/力を込めて
私は目を開けた。
サッと明かりが迫ってきて咄嗟に目を細める。
隣で誰か動いてる。
お母さんとお父さん?
何でここに…
そんな事よりも何で泣いてるの?
私は起き上がろうとして気付いた。
私の顔につけてあるポンプ、チューブ達。
私、そんなヤバいの?だから泣いてるの?
御免けど全く思い出せないや。
一度本気で考えてみようと、
一番楽な姿勢に戻る。
私が目覚めて、動こうとしている
のにも関わらず
隣の医者や看護師、
ましてはお父さん、お母さんも
さっきと同じ体制で肩を揺らしている。
昔から体は弱かった。
今私が見ている病院の白くて、申し訳程度の模様の入った天井。
一体この天井を見るのは何回目なのだろう。
声を出してみる。
でないと思っていた声がすんなり出て来て
正直驚いた。
それを良いことに私は大声で
「如何したの?!」
と呼びかけた。病室内にひびく私の声。
誰も反応しない。おかしい。
「お父さんお母さん!私目が覚めたよ。元気だよ!」
反応無し。
チューブ類が外れないよう、動いてみる。
さっきより大きい声で、動きながら叫ぶ。
全く状況は変わらない。
私は居ない事になっているの?
空気?
お父さん!
私はお父さんの肩を叩こうとした。
叩けない。イヤ、すり抜けた?
え?私死んだ?
叩く勢いで、チューブが外れてる。
苦しくもなんともない。
全部抜いてみる。
なんともない。
さっきから聞こえる、不吉な音。
ピーーーーー………絶え間なく鳴っている。
その機械はどう見ても私に繋がれている。
本当に死んでしまったの?
急に悲しさというか、感情がドッと来て、一気に涙目になる。お父さんとお母さんを見つめて、
問い詰める。「いい加減にしてよ!!」
何も帰ってこない。
あれから私は元気な体で起き上がり、
死んだ私と分裂していた事に気付いた。
正直怖い。私は誰からも、見れない世界に一人で、
生きなきゃいけないの?いや、生きる?私って今、生きてるの?死んでるの?それともそれ以外?
あれから月日が流れる。
私が学校で仲良くしていたグループや、先生達は最初の三ヶ月は、無理に生きているような目をしていた。そして私に関する事は完全に禁句になっているらしい。
だが最近は笑顔が増えてきた。
楽しそうに話していて、まるで1年前と変わらないように。つい最近まで私もあそこに居たのに。
私の居る定位置なんか最初から無かった用に、
楽しく、喋っている。
あぁ。私も前まで知っていたのに。
最近の皆の事や、身内ネタも、知ってたのに。
恐らく私が生き返って話に入っても、もう分からないのだろう。
これからは私の知らない、世界になっていくのだろう。
新しい転校生や先生が入ってきても、私は知らないし、分からない。
私が歩いた廊下も座っていた机も。
今では私がいた事なんて分かりもしない。
私は本当にこの世から消え去ってしまったんだ。
~お題/過ぎた日を思う~
コツン。
私の目の前にアイスコーヒーが置かれた。
いつもは声を掛けて置いてくれるのだが、
私が外を眺めてぼーっとしていたので
きっと気を利かせてくれたらしいのだ。
私はひと言、「ありがとう。」
と、いつもの可愛い女給さんに感謝を伝え、
アイスコーヒーを一口飲んだ。
ほろ苦ーい、いつもの味。
うん、美味しい。
また外を見つめる。
今日はもう帰るかぁ。
そろそろ社の休憩時間が終わる。
いつもはもうちょいゆったり出来るのだが
最近仕事が忙しい。
サボり癖のある私も最近は出社している。
コーヒーを一気に飲み干し、会計を済ませ、
店を出る。いつもどーり、店が並んでいる。
私は社の方向へ歩く。そして暫くすると足が止まる。ん?なになに?「良く当たる!星座占い」
だと?
ふーん?
私は、自然と古本屋の外に置いてある棚の方向に
方向転換して歩く。
歩きながら、その本のサブタイトルを読む。
「この本で貴方の全てが分かります!」
嘘臭い。
いつの間にか棚に到着して、本を手に取る。
私が本を開いて自分の星座だけ見ようとすると、
新聞をまとめる紐のようなもので、止められていて、本が開けない。
最近はこんな対策されてるのか!
周りの人の目とついでに店の中に居る店員とも目があった。。
買うか。
私はちゃんと買いますよと言うように、堂々と歩いて店の中に入って、レジ前に置く。
ピッ!と、レジに通されて、代金が表示される。
2700円!?たっか!たかが占いでしょ?!
私は泣く泣く1000円札を三枚出し、300円のお釣りを貰う。
こんなことなら、社でインスタントコーヒー飲めばよかった!もったいない!
私は占いは信じない。「見るだけ」なのだ。
幽霊は信じないが怖い話は好きみたいな感じだ
私はとぼとぼと歩いて今度こそ社に向かって歩いた。
せめてこの本は同僚と楽しみながら読むとしよう。
社に付いた。
私はさっそく、その本が詐欺なのか確かめるべく、
紐をはずし、私の星座のページを開く。
ええっと?
「貴方は正義感が、人一倍優れているでしょう。
町中で困っている人がいたら、助けられずには居られない貴方!貴方は人を優先してしまうため、自分が疎かになっていませんか?そんな時は!黄色の帽子を身に付けると良いでしょう!」
……。こんな高い星座占いを買う純粋な良い子は信じてしまうかもしれないが、誰にでも当てはまるようになってるな。
他のページも見てみるか。
ちょうどそこに居た忙しそうな同僚に星座を聞いて、その星座のページを開く。
…同じようなことが書かれている
やっぱ詐欺か。
酷いなぁ。こんな高いのにさあー!
私は手を伸ばして机にへばりつく。
そんな中忙しい筈なのに、平和な会話が聞こえてきた。
「今日って蟹座が綺麗に見えるんですってねぇ!」
「へぇ!そうなんですね!」
ふーん蟹座ねぇ。
私は蟹座だ。
タイミングが良いなぁ。
なんて考えながら、星とか見るのは好きだから
今日の夜の予定が無いか思いだしていた。
そうだ。星座なんて関係ない何月生まれだからあの星だとか、今考えたら意味不明だ。
嫌な事なんて全部忘れて、
今日の夜、綺麗な星座が見られると良いな。
お題/星座
私は歩く。
特に宛はない。
何で歩くかって?
私が分かるはず無いだろう。
まずまず、行き先がないと言っているだろう。
それに私は頭が悪いのだ。
あ、でも此れだけは分かるぞ。
幼稚園児でも簡単に分かる
ここが何処か。
ここは地獄だ。
私は今は地獄にいるのだ。
地獄を彷徨っている
君が思い浮かべる地獄はどんなのなんか知るはずないが、確かにここは地獄。
いや、地獄の中でも最深層だ。
何故そんなに地獄に居ると言い張って居るのに
私はこんな冷静で、君に状況を伝えて居るか?
…私も詳しいことは分からないが、
昔、古い本に書いてあったのを思い出した
「人間とは、生死 彷徨う時、この世で一番賢い生き物となるのだ」
人間って死ぬ時、周りの人間よりも一番冷静に
判断、出来るんだとよ。
格好よく昔、とか言ってみたが、
正直マジで意味が分からん。
その本は一様子供用の字が大きく書かれている奴なのだが、翻訳やなんやで意味不明だ。
キリストとか?全然信じないって言ってるのに
キリスト好きのせんこうがよう……
う゛う゛ううん。
私は話し出すと長いんだ。気付いただけ許してくれ。
そんな事よりも私はこの地獄から抜け出したいのだが……すぐには無理だな。これは
とゆうか、さっきの本、間違えるんじゃないか?
私はこうやって冒頭で言った通り元気に歩いてる。
すぐに死ぬなんて思わない。
これも死に際の判断障害みたいな奴なのだろうか。
あ、水がある。
え?何で?
この際言ってしまうが、
冒頭から大袈裟に言っていた地獄とは、砂漠である。最後の最期に実は砂漠でしたー!みたいなの
やろうと思ってたのに。
てか本当に何で水があるの?
え?おあしす?
何それ?
え?そんなの小学6年生でも知ってる?
うるさい。私は頭が悪いと言ってるだろう。
とりあえず、喉カラカラだから水飲もう。
汚いかもだが、こればっかりは喉カラカラで死ぬのは嫌だ!
今日も上司が叱ってきた。
しかも凄い理不尽に
同じグループの奴がミスしたからだって
俺は何もしてないのに何故怒られるか
ハァ……、
こんな事を考えていたらきりがない
可愛い子供と妻達の事を考える。
…早く帰ろう。
子供と妻だけが俺の支えだ
疲れ切っている、自分の体に鞭を打ち、
急いで帰る。と言っても家もすぐそこ。
自分の家が見える。車に乗ってる時に取り出した暖かい鍵を刺す。
電気の付いた明るい部屋に家族が自分を待っていると思うと、微笑まずにはいられない。
扉を開け、大声で「ただいまー!!」と声を掛ける
すると子供達が玄関まで走ってやって来る
後から妻が子供達を見守るようにやって来て、俺に優しい声で
「お帰りなさい。」と言ってくれる。
もうそれは1年前の話だ。
妻と子供は死んだ
丁度、1年前の12月25日のクリスマス。
俺がケーキ屋に、クリスマスケーキを取りに行っている時だった。
1本の電話がきた。′′妻と子供が亡くなった′′
と。その言葉は本当に印象強く、1年経った今でも勝手に脳内で再生される。
子供たちがわくわくしながら、ラッピングをはいで、やったー!!欲しかった奴だ!
とあまりにも喜ぶのでクリスマスは好きだった。
だが、今年は違う。いや、今年からは。か…
俺が死ねば良かったのに。何故 俺が生きているのだ。俺の家を強盗して俺の妻を、俺の子供達を滅多刺しした奴を殺してやりたい。
だがもう警察に捕まり、終身刑を言い渡されたそうだ。
俺の妻と子供は怯えながら、痛く、苦しい思いをして殺されたのに、
そいつはのうのうと生きているのだ。
鞄から冷たい金属の鍵を取り出し、鍵を刺す。
虚しくなるだけだと分かっているのに、
ただいまと呟く
暗く、クーラーの音すら聞こえない、静かで、大きい家。誰もいない。
散らかった廊下を歩き、机の前に座る。
ふと、子供の喜ぶ顔を見て妻と顔を見合わせて微笑んだ時の光景を思い出し、
ほとんど空席の、無駄に大きい机を思いっきり叩いた。
「バン!!!!」
家中にうるさいのに、静かな、悲しい音が鳴り響いた。
~静寂に包まれた部屋~