7/29/2021, 9:01:31 AM
今日は大好きな先輩と話せる口実があるのだ、と登校してから何度も繰り返し言っていた彼女。余程楽しみなのだろう。
授業終了を告げる音が鳴り、隣の彼女はそわそわし始めた。落ち着きのないソイツを暇つぶしに眺めていると、ようやく担任がやって来た。HR中に隣をちらりと見やると、今にも頭から湯気が出そうなほどに緊張していた。この様子じゃ、内容なんて頭に入っていないだろうからあとで教えてやるとしよう。
そんな事を考えている内にHRが終わり、彼女は待ちかねたように飛び出していった。
頑張れよ、と一言、心の内で応援の言葉を投げかける。
HRが終わってすぐ、私は走り出した。階段を駆け下りて、3年生の教室の階で先輩を待ち伏せる。
─── 来た!
「先輩!今日の放課後の部活の演奏会、ぜひ見に来てくださいっ!」
向かいの棟に、溢れんばかりの笑顔で先輩に話しかける彼女がいた。
饒舌で若干のノリで押し通す、積極的に踏み込んでくる後輩。
あの先輩からは、彼女はきっとそう見えているのだろう。
先輩と話せる。たったそれだけの事で一限から六限を緊張した面持ちで過ごして、その一瞬のために何度も練習をする健気な彼女を知っているのは、僕ひとり。