ずっと一人だった。哀しくて、虚しかった。
でも貴方のおかげで、私の真っ白な世界は色付いた。
貴方は最初、笑っちゃうくらい下手だったけれど、飲み込みが早くてすぐ上達していったチェス。
でもいつからだっけ。
貴方が目を覚まさなくなってしまった。悪夢にでも取り憑かれている様で、眉間に皺を寄せ続けている。力になれなくてごめんなさい。何もできないけど、貴方の目覚めを私は待ち続ける。
大好きな貴方の目が覚める前に、チェスボードを用意して待ってるから。おはようを言わせて。
2024/08/05 #目が覚める前に
花が嫌い。
いつか散るから。
果物が嫌い。
いつか腐るから。
白が嫌い。
何にでも染まりやすいから。
消毒液が嫌い。
鼻につんとくるから。
手術が嫌い。
痛いし、辛いから。
窓の景色が嫌い。
いつも代わり映えがないから。
今日も生と死の狭間を揺蕩っている。
自分が嫌い。
2024/08/02 #病室
「もうどうしたらいいのかわからないよ」
目の前でうずくまって、完全に篭ってしまった君がぽつりと呟いた。いや、呟いたというより漏れ出した、が正しいだろう。
ああ、彼女に何を言っても届かない。
僕の言葉ではどうもできない。僕では君の降らす雨をとめることができない。自分の無力さに腹が立つ。
彼女は精神を病んでしまった。理由は知らない。でも、何かただならぬことがあった事ぐらい容易に想像できる。
幼馴染で、昔から笑顔で元気だった君がこうして苦しんでいる様を見ると、こちらも胸が痛い。
救い出したいのは僕のエゴだ。
今はこれが精一杯。許して欲しい。
「明日...もし、少しでも、晴れたらでいい。出かけよう。好きなことをしよう。なんでもしてあげるから。」
君の心を晴らすために、僕の全てをあげる。
2024/08/02 #明日、もし晴れたら
忘れ去って欲しい。
誰からも弔われることなく、命を捨てたいと思うことは果たして異常だろうか。
家族や友人など、たくさんの人に看取られたいという人もいるだろう。
でも一人で溶けてしまう様に死ぬのも悪くない。広大な自然の中で眠る様に息を引き取るのだ。なんとその閑静なことか。
だから俺は一人で遺体になる。
一人でいたい。
2024/07/31 #だから、一人でいたい。
「しばらく、バレエは控えた方が...」
この言葉が脳裏から離れずに、ずっと響いている。どうして、私が。
物心ついた時から、私の生活の一部のバレエ。新品のトウシューズも今ではもうオンボロ品だ。
ずっと、ずっと続けてきたのに。私にはこれしかないのに...息苦しい。
その日の夜はろくに眠れず、ただ枕を濡らし続けた。どうしよう。あの子に追いつかれちゃう。
私の二つ下の後輩の木枯 雛ちゃん。今ではバレエ教室内で、一番の私に並ぶ程の力をつけている。あの子の前で、私は一番でありたいのに。私の挫折は彼女にとって、成長するための肥やしでしかない。
「っくそ...くそぉっ...!」
私はステージに立てなくなったんだ。
「アキレス腱炎だってね、花ちゃんももう大学受験でしょう?辞める機会には丁度良いんじゃないかしら?」
遠回しに先生に必要ないと言われた様で、酷く心が痛む。私はまだ足掻いていたい。けれど、続けたいとは言わなかった。言った所で無駄だと感じたからだ。
足取りが、痛みだけでは無い何かのせいで重い。何十年と通った教室も今日で最後だ。
「...ねえ、花。バレエ続けたいんじゃない?」
「...え?」
「お母さん、昨日聞いちゃったから。もし、もう辞めるなら別に良いんだけど、続けたいなら、続けるべきだと思うし、バレエはやるだけじゃ無いと思うから」
母の言葉を聞いて、またステージで舞えそうなくらいに足が軽くなった。そうだ、どうしてやる事だけに囚われていたんだろう。他にもっとあっただろうに。ショックで視野が狭くなっていたのだろう。
私はバレエをやめないというより、やめられない。
たとえまた嵐が来ようとも、大丈夫だろう。
花は舞い散っては、咲き誇るのだ。
2024/07/30 #嵐が来ようとも