#ありがとう、ごめんね
分かってる。
師走の誕生日は忘れられやすいって。
何ならクリスマスとか年末の方がめでたい感ある。
何で誰も覚えてないんだよ、って子供の頃は思ってた。
けど、仕事したら理解出来た。
単純に出勤したら日付が飛ぶ。
そして勤務中それは只の記号になる。
8日の金曜日。
車は左走行、って事と何ら変わりない。
運転してる時左走行の意味なんか考えるか?
俺は考えてない。
前の車のブレーキランプと信号と横断歩道ばっか見てる。
8日の金曜日も、そう。
締切は明後日。
午後はこっちの仕事を振って、割って、確認して、相談する。
労働 労働 労働
そして、退勤。
この時に考える事はたった一つ。
ーーサッサと帰りてぇ。
もう帰ってる、何なら運転してるのにさっきから
帰りてぇ、しか浮かばんのやが。
そんで、ふと赤信号で止まって気付く。
「俺、12月8日の金曜日って誕生日じゃ...ね?」
ここでやっと記号に意味が生まれる。
そして、落ち込む。
師走だ。仕方ねぇよ。
あぁ、しかも俺の誕生日はあと5時間もすりゃ終わる。
何やってたんだ今日一日の俺。
俺A:あ?仕事に決まってんだろ。
俺B:ですよねー。
虚しいノリツッコミで余計に車が寒ぃ。
救いなのは俺には可愛い嫁さんがおるって事。
あいつの保育園の先生みたいなエプロンが見たい。
そう思いながら玄関を開ける、と嫁が座ってた。
玄関で。
「何してんの。」
「おかえりなさい、お疲れ様です。そしてごめんなさい!!」
【問1】
でんきタイプの頬袋に電気を貯める黄色い着ぐるみパジャマ着た嫁が玄関で、座り込んで謝っている時の俺の気持ちを述べよ。
【答え】
訳が分からん。
聞く所によると誕生日だと覚えてはいたらしい。
一日中クソ忙しい中で絶対に向かいの道路の裏路地のケーキ屋に行くと意気込んでいたらしい。
予約はしない。
何故ならお互いに取りに行ける確証が無いからだ。
残業はあっという間に湧いて、片付くまで帰れない。
けど、うなだれた黄色の後ろ姿に着いていけば、
テーブルの上にはシュークリームが有って、
ろうそくが立ってる。
「えっ、有るやんありがとう...っ、!」
「ごめんねっ、!こんなんしか無かった」
ーーえ?
お互い顔を見合わせてマジマジと見つめ合う。
ーーなんて?
「いや、火着けたら完璧やん。俺の誕生日会やん!」
「... ...コンビニのシュークリームだよ?」
「デカい奴やろ、ろうそくも立ってるやん!」
「... 去年の余りです。」
「完璧やん!めっちゃ嬉しい!俺さっき自分が誕生日って思い出したからこんなお祝いされたら嬉しいに決まってる!」
「ほんとに?ほんとにそう思ってる???なんか申し訳なくて。」
正直今は、
しょげてる着ぐるみパジャマ可愛い、しか分からん。
「その、着ぐるみはプレゼントデスカ。」
「え?!」
「中身が、ほら、特別なアレとか、」
嫁が顔真っ赤にして俯いてる。
押し黙ってても可愛いが過ぎる。
はぁ。癒し。可愛い。
「とりあえずシュークリーム食べよう!俺の誕生日お祝いしてくれてありがとう。」
とぼとぼキッチンへ歩いてフォークを持ってきてくれる。
あ。しっぽ着いとるやん。垂れてる。可愛い。
「な、中身は見てからのお楽しみ...ぃ、さぁ!何味でしょーか!?」
「あ?」
【問2】
今のはダブルミーニングか否か。
【答え】
これ食ったら確かめて来るわ。
因みにシュークリームはイチゴ味やったわ。
甘っ。けど、嬉しいなぁ。
#部屋の片隅で
息が乱れる日が増えたから。
ケチケチの財布をこじ開け
思い切って模様替えをした。
部屋の角には家具を設置するものだと言う固定観念をぶっ壊し、
棚を移動させ、
ヨガマットを敷く。
600円。
ハハッ、
気が引ける様なピンク。
の、割に。
壁沿いに敷いたからか、かなり居心地がいい。
「意外、」
そんで、失礼して壁に両足をあげる。
5分そのままでいると気が付く。
呼吸が浅くなっていた事に。
イケナイ、
良いジャンプは良い助走から。
良い余裕は、良い呼吸から。
だいじなのは腹式呼吸。
「出来たっ。」
#逆さま
「第一回許せない逆さま選手権ー」
「いえー。」
「洗濯物。」
「おい、挨拶無しにジャブ喰らわすな。」
「旦那氏、洗濯物は裏返してくだされ。」
「ふっ、めんどくさいでごわす。では嫁子殿。ケチャップは蓋を下にしてドアポケットに立てて仕舞って下さいませ。」
「却下。どうせ傾く。あとで振りたまえ。では夫君。食洗機の箸は先端を下にしておくれ。しかし、スプーンやフォークは今のまま先端が上向で宜しい。」
「鋭意努力致します。では妻よ...今、着てるパジャマ裏表じゃね?」
「うそっ、!?」
「嘘じゃねえって、首無いもんほら、見てみ?」
「ぐっ、ふ、タグ前に付いてるわ、ありがとっ」
「いや、ずっと気になってたんよ。最初の"選手権いイェーイ"からずっと。はぁあーすっきりした。」
「良かったやん、んで洗濯物は?」
「ううっ、忘れて無かったか。」
「裏表逆さまにすると早く乾くし、汚れが落ちるんですーっ。」
「わ、かったから。全部?」
「全部、じゃなくて良いけど厚手のものとか。汗かいたなとかはひっくり返しておいた方がいいんじゃ無い?」
「了解。」
「他には?」
「無い?」
「無いねぇ、」
「短い選手やったなぁー。」
「優勝は?」
「パジャマやろ。」
「パジャマっ、今日なんか首、チクチクするなって思ってたんだよね。全然気が付かなかった。」
「俺はすぐ分かった。首が何時にも増して無かったから。」
「おだまりっ!」
「おだまりwww」
#眠れないほど
冴え切った頭と血走った様な目で
テレビが反射する壁を睨み付け息を詰める。
うっかり見てしまった。
クリスマスプレゼント 彼氏 の検索下部に映る、
該当商品。
なんっだソレ。
筋肉ムキムキのマグカップと、
カートに何かが1つ入っているマーク。
まさかソレがクリスマスプレゼントじゃないだろうな。
盗み見た様なものだから
聞くに聞けないまま寝室へ向かった彼女を見送る。
俺は明日休みだから。
弁当と朝飯の用意を済ませる間も気になってしょうがない。
更には、美味いはずの缶の酒を煽っても頭にはムキムキマグカップが浮かぶ。
「せっかくの休日なんだけどっ、!?」
俺は、特にこだわりがあるわけじゃ無いが。
彼女がやってくれるなら
一度は俺だけの可愛いサンタに会いたい。
ベタベタな妄想を働かせる俺を殴ってくれても良い。
ちょっとだけでも、見たいっ、
勿論。
彼女がくれるなら何でも嬉しい。
但し。ちょっとソレは待って欲しいな。
どうする。
言うべきか言わざるべきか。
「... ... それが問題だ。」
盗み見たマグカップが気に入らないから
クリスマスプレゼントは一緒に選ぼうって言えば良いのか。
そもそも盗み見た様な状況なのが不味い上に、
プレゼントに文句まで付けるのか俺は。
クソーーッ。
笑えるバラエティが流れてる筈なのに
内容が全く入ってこない。
いっそ筋肉マグカップも思い出に残る。
面白いじゃねーか、と言う気持ちも出て来た。
なぁ。
俺は一体どうすればいい????
このままじゃ今日は眠れないぞ、
#夢と現実
夢は幾つもあった
J・Kローリングの様な世界に飛び込みたかったし
警察官にもなりたかった
だがしかし
私は至って平凡で
自分を他人より少しばかり賢いと思っている
ただの平和主義者だった。
物語の様に
悪は分かりやすく悪では無かったし
努力だけではどうにもならない事がある事も知ると
私は瞬く間に平凡の一粒へと成った。
好戦的な他人は死に物狂いで働いている。
それを横目に
細々と生きていくのがやっとだった。
羨ましい限りだ
そして妬ましい
諭吉の数が私を惨めにする
けれど
私は健やかであった
今も諭吉の数を数えているが
死んだ様な目をして
神経をすり減らし貼り付けた笑顔で
いらっしゃいませ
とは言っていない。
ただほんの少し、
他人が羨ましいだけだ。
彼らは私より良くやっている。
何か良いことが彼らにもあれば良いのに。