暗くなる前に彼女を門扉の前まで送り届ける。
そうすると取れる行動はもう他には無い。
釣書だけでは何も分から無かった。
写真は尚更、作り物の様な顔と姿だった。
それが実際会えば落ちるのは一瞬だった。
小さい背中、白い指、伏せ目がちな目。
「今度は、外で会いませんか」
みっともなく上擦った声だった。
しくじったかと思っていたが。
相手方から頂いた手紙には思いがけない返事を貰えた。
だからこそ
今日は彼女が楽しめる様に尽くしたかった。
だからこそ
彼女が門扉を潜る前に紡ぐであろう言葉を聞きたく無かった。
それなら
他に何と言えば良いのだろうかと考えて
「また会ってくれないだろうか。」
今度は上擦らなかった。
だが、気障だったろうか。
私は心配性だとよく上司に言われる。
それでこそ任せられる仕事だと仰ってくださるが、これは仕事では無く。
私、個人の問題だ。
「また、会いたいのです。いけませんか。」
もっと他に言い換えれば彼女も私も傷付かずに済む事は分かっているが。
私は嘘は吐かないと決めているのです。
真摯であるべきと決めて生きているので
こう愚かな聞き方をしてしまうのです。
申し訳ない。
だから断られたら潔く身を引く覚悟だ。
出来ていなくともそうすべきだ。
それが男だ。
「いいえ。」
「ぇ。」
「いけなく、ないと思います。」
「は。いけなく、ない、と言う事は。私とまた会ってくださると言う意味でしょうか。」
「今、お決めになりますか。あっ、の。お手紙だとつい郵便屋さんがここを通る度に気になってしまって、家事どころではなくなってしまうので、」
私は舌を噛んで頬が緩みそうになるのを耐えた。
可愛らしい人だ。
あまりにいじらしい事を言う。
「では、今度の」
私達は暗くなるまで門扉の前で話し込んだ。
せっかく早い内に街から戻ったと言うのに、これではご家族に面目が立たない、が。
「では、また。」
「えぇ、また。」
さよならは言わないで居た。
何と言っても新しい約束が出来たのだから。
コインを投げて落ちる瞬間、
その寸前まで表か裏かを選べるとしたら。
表なら
なにをする?
裏なら
このまま堕ちて行け
バケツをひっくり返した様に泣き
泥の様に眠り
落ち着いた頃、落ちたコインを拾い表にすればいい。
さぁ。
表ならなにをする。
散歩か菓子かパンかみかんにこたつにチョコレート。
さぁ。
コインが落ちる3秒前。
どっちに賭ける。
#光と闇の狭間
#距離
距離を取りなさいと友は言う
それなのに私はあっという間に線を飛び越えてしまう。
一生懸命で不器用で幾つになっても周囲の人間は皆、優しい人達だと思ってるバカな私。
こうして泣く度に心優しい友が
だから言ったじゃ無いかって肩をぶつけてくる。
人間は気に入った人間にしか優しくしない生き物だし、そもそも"気に入った"の定義があんたとは違うんだよと慰めてくれる。
それでも、優しい部分を見てしまったら。
だって、他人に優しくするのって凄いことだよ。
そう言って鼻をかむ。
あんたはすぐにそうやって誰かを気に入っては泣くんじゃないか。
優し過ぎるんだよ。
人間はもっと自分勝手だ。
あんたはそうじゃないだろうけど、
摘んだ薔薇を笑って渡すのは仕事でも、棘を取るかどうかは贈り手の自由なんだよ。
あんたはきちんと棘を全部隅々まで取り払ってしまうんだろうけどね。
じゃあ私の友はなんで私に優しいの。
「あんたがくれる薔薇が好きだからだよ。」
「そんな事、泣かなくて良い!」
あんたは悪く無い!
あんたは努力しただろ
あんたは頑張った筈だ
途中で投げ出しもせずどうしようか考えて、最善を尽くした筈だ。
あんたはめげなかった
あーすみません、わかりませんでしたー
そう言えば良い
言わなかったのはやってみようとして頑張ったからだ。
やらずに放っておくよりずっと良い
放って置けなかった
それだけで偉いだろ。
時間通りに終わらなかった?
明日やれば良いさ。
駄目なら誰かの手を借りると良い。
それも駄目ならもう君の手には負えないと言う事だ。
出来るわけがない。
君の容量はもう超えている。
それなのにまだ放り出さないのか?だろ?
泣かなくて良い。
どうみても、君はよくやってるじゃないか。
#泣かないで
#冬の始まり
「出来たぞ。」
ザクザク切った具材を鍋に入れて煮る、
肉団子と水餃子、豆腐、水菜、白菜、マロニー。
「キムチ鍋ーっ、!」
俺は豚肉派なんだけどな。
肉団子と水餃子に決まってる、と言われて食べてみたら言わずもがな旨かった。
「貸して貸して!」
こいつは何でか鍋を張り切って食う。
「じゃーんっ!」
機嫌良さそうに笑って皿を戻してくる。
旨そうな鍋が器に盛られてる。
いつも見た目なんか気にしない癖に。
なんでか鍋の時は俺の皿を取り上げて、こうして綺麗に盛って渡してくる。
実家の犬がこんなだった。
バカかってくらい可愛い。
タレ目で。元気でとにかくよく寝る。
「これやると冬が来たなって思うんだよねー。どう?私が注ぐと美味しいっしょ。」
「はいはい。旨いな。」
〆まだ続いた。