あなたがいるから、わたしは一人じゃないわ。
「……あの子、いっつも空中に話しかけてるよね」
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二人ぼっち
またいつもの光景だ。
あなたのいる、あの日のもの。
何もかも、自分の体さえも、全てがあの日の通りに違わず動き、
五感もその全てが正しいと言う。
いつも通り、いつもと同じ、
空の色、陽射しの眩しさ、肌を撫でる風、この土地の匂いも、あなたの温かさも、
全てがあの日のまま、何一つ違わない。
その終わりも一緒、陽は傾き、冷たい静寂、闇の帷、そしてあなたの体温も遠ざかり、ああ、やがて楽しい時間が終わる。
またもう一度、この光景を見れる時が来るだろうか。
自分の体、なんとか動かせないだろうか。
もう一度、あなたの手を握りたい。
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夢が醒める前に
どうせまた小言でももらうのだろう。
一人で来るよう伝えられた場所への道のりは、ただ、憂鬱だった。
相手が異性ゆえに周囲には茶化されるが、自分とあの人はそういうのではない。ただ上下関係が築かれているだけである。
そこまで考えて、溜息一つ。
あぁ、でもこうやって呼び出されるのは、中々珍しいな。
今日はどうしたのだろうか。そういえば、声音がどこか、焦りを思わせたような。
あの眼差しもまた、いつも通りのようで、しかし真剣味が滲んでいて——
……待っているであろう、あの人の姿を思い浮かべる。
……どうして自分は、手に汗をかいているのだろう。
どうしてこの、速度を上げた心臓の鼓動が、こんなにもうるさいのだろう……!
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胸が高鳴る
きみがいないのに、なんで世界は素知らぬ顔して回ってるんだろう?
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不条理
「きちんと、笑顔でお別れするんだ。
でなくば、あの人も不安で残ってしまうだろう」
「……分かりました」
「本当に、大丈夫だね」
「はい。大丈夫です」
「なら、花を。
花束からひとつ抜き取って、あの人のそばに置いてあげるんだ」
「……はい」
大丈夫だとも、笑顔で出来るに決まっている、
これはただの儀式だ、あの人に必要なもの、
ただそれだけだ。
「……」
花を、一つ、純白の花を一つ。
手に取って、あの人のもとへ。
「…………」
大丈夫だ、きちんと笑顔が作れている、大丈夫だ。
あの人の場所が近付く、あの人が見えてくる。
「っ……」
だいじょうぶだ、この人はただねむっているだけなんだ、だいじょうぶだ、
花を、この人のそばへ、
そばへ、おかなきゃ、
おわかれを、おわかれを、しなきゃ、
花を、花を、
花を、持つ、手が、ふるえた、
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泣かないよ