あなたが遠のいていく
同期していた胸の鼓動が遠のいていく
虚無が近づき、僕に覆い被さる
心が、感覚が溶けて行く
感じるのは自分の胸の鼓動
それも、遠のいていく
もういいや、このまま
僕も溶けてしまおう
そう思った時、鼓動が近づいてくる
懐かしくて、よく知っている音
僕の鼓動も近づいてくる
互いに寄り添い、再び同期する
もう二度と、離れる事も、途切れる事もない
「君って、慌てると踊るように
あたふたするね」
急にそんなことを言う
「いやいや、そんなつもりないから
頭の中がぐちゃぐちゃになってて
身体をどう動かしたらいいのか
わからないだけだから」
こちらの気も知らないで
内心、はあ、とため息を吐くと
「気にしなくていいよ、かわいいし」
と頭を撫でられた。ぶっきらぼうに
「あっそ、」と言いながら廊下へ出る
彼に撫でられた箇所に何度も触れる
頭の中も、心の中も踊るよう
時計が時を告げる
え〜、もう少し眠りたい
時計が時を告げる
待って、まだ食べ終わってない
時計が時を告げる
いやだ、明日を迎えたくない
むかついた
針を止めてみよう
数字を全て塗り潰してやろう
これでどうだっ
…ん?今何時?
何年?何月?何日?
私、何で動けないの?
というか、今生きてるの?死んでるの?
「海だー!」
彼女は何回も、そう叫ぶ
「何回目?ていうか、なぜ叫ぶ?」
そう言うと
「なんとなく」と返ってきた
訳が分からなかった
頭に疑問符を浮かべながら
貝殻を拾っていると
「なんで拾っているの?」
と聞いたので
「なんとなく」と返した
帰りの電車の中で二人とも
「海って不思議だね」と言いながら
貝殻を眺めていた
幼なじみの彼は、メジャーリーガー
いとこのあの子は、国民的女優
それにくらべて
僕は、ただの会社員
彼らの様なきらめきが
僕には全然ない
まさにダイヤモンドと石ころ
そしたら、彼女は
「どっちがいいとか、わるいとか、わからないけど、
私、石の上を歩いてたからあなたに出会えたんだよ?」
と、顔を背けて、耳を赤くして
そう言ってくれた
「ごめん、こっちむいて、そのまま、動かないで
そのきらめきに、少しだけ見惚れさせて?」