《絆》
騎手と競走馬 ビールにはジョッキ シャンプーといえばリンス 一度は短針を追い越しても必ずまた追いかけて戻ってくる長針 縦の糸はあなた横の糸はわたし 心と心を繋ぐ糸電話的なもの 見えないけどある
《たまには》
和牛ステーキ用を買って帰る 早退して映画に行く スパイスからカレーを作る ハイカカオチョコレートを鼻血覚悟で存分に食べまくる 歯磨きをサボる 九谷の皿に刺し身を盛り付ける スマートウォッチではない腕時計を着ける 電波の届かない所に逃げる マヨヒガを見たという噂が立つ 黒電話のダイヤルを回してみる 鳩時計からハトじゃないモノが出てくる 広辞苑を枕以外の使用法で使う ガチで断食する 座敷童の二分の一成人式の案内が家主じゃない人に来る 野生に帰って月に吠える トマトジュース以外の赤い飲み物が欲しい
《大好きな君に》
毒を盛る おさげ髪をひっぱる 羽交締めにする 壁際に追い詰める モズのはやにえを見せる 花を踏みしだく いつも背後に居る カメラは常に用意万端 意味深に唇を歪ませる 尾行する ポストを開ける 破れた紙片に無記名のメッセージを忍ばせる 合鍵を入手する 毎日のように身悶える 花につく害虫は密かに退治する 今日も影のように、ほら、此処に
《ひなまつり》
弥生 五段飾り お嫁入り 桃の花 手毬寿司 白酒 蛤 色とりどりのあられ 赤白緑 雪洞 晴着 上巳 厄払い 流す 猫柳 和らぐ日差し 本格的な春の到来 縁側でおはじきをする女の子の愛らしさ 黒髪 襲の色目 檜扇 宮中の闇 曲水の宴の罰杯 雅 金糸銀糸の縫い取り 綾なす燻煙 恥じらい 初めての粉黛 紅差し指 引目鉤鼻 面相筆 ミニチュア 細やかに動く職人の指先
《たった1つの希望》
今年のバースデーケーキは王道のイチゴをねだるか、チョコをねだるか、抹茶にするか、シャインマスカットにするか。あるいはフルーツタルトというのも悪くないし、シンプルにチーズケーキというのもありうし、なんならババロアも好きだし、モンブランにも心惹かれるし。ケーキショップのショーケースの前にて、色とりどりのケーキ目掛けて希望が躍り上がるものの、叶えられる希望はたった1つ。いつも1つ。必ず1つずつ。もしくは、ゼロ。