028【開けないLINE】2022.09.01
ある日のことだった。きゅうにLINEを開けなくなった。アイコンをタップしてもタップしても、LINEが開かなくなってしまった。
パニックになりそうになりながら、家族にたずねてみた。家族のスマホは、ちゃんとLINEが開いた。翌日、職場の人にもたずねてみた。やはりちゃんと、LINEは開いた。そして、なぜ私のスマホだけきゅうにLINEが開けなくなったのか、だれもおもいあたるふしがなかった。インターネット関係に詳しいS君なんかは、親切にも一時間くらいあれこれ調べてくれたが、同じような症状はヒットしなかった。
結局、そのままひと月たった。私のLINEはいまだに開けない。だけど、開けないなら開けないなりに、なんとかやっていけている。それに、LINE特有のわずらわしさから解放されて、実は、ホッとしたりしてるのだ。
もう、ホンネをいうと、このままなおらずいてくれるほうがありがたいんだけど……みんながあいかわらず心配してくれてるから、さすがにそれはナイショにしている。
027【不完全な僕】2022.08.31
不完全な僕だから、大人になるまで毎日学校に行って勉強しなきゃいけないんだ。だけど、僕は不完全だから、明日から突然学校に行けなくなるかもしれないんだ。あっちにころんでも、こっちにころんでも、どっちにころんでも、不完全のデコボコだらけ。それが僕。
もしかしたら、一生うまくころがれないかもしれない。けれど僕は、ずっと、僕らしく、やっていく。だってね、不完全でも僕は僕。僕は、僕でしかありえない。このデコボコもまるごといっしょで、僕は、僕らしい僕なんだから。
だから、僕は僕らしいやり方で、このデコボコをおぎなっていくんだ。できるなら、僕にちょうどいいペースでやっていけたらうれしいんだけど。
父さん、母さん、それから先生。
僕が僕らしくやっていけてるかを、ちゃんとみててね。まずは、大人になるまで、ゆっくり、じっくり、ね。
026【香水】2022.08.30
さようなら、あなた。もう二度と、会うことはありませんね。だから、あなたからもらったこの香水も、捨ててしまいます。
私は、香りをつけるのはあまり好きではなかった。ただ、あなたがリクエストするからまとっていただけ。あなたとの縁が切れるいま、私は無香無臭の私にもどります。
香水は瓶の半分より下に減っています。それほど長かったえにしでした。だけど残りのそれもティッシュにぜんぶ染み込ませて、燃えるゴミの日に。サンキャッチャーのようにきらきらしたこの瓶も……お気に入りだったけど、燃えないゴミの日に。
香りの微粒子すら、一切残さずに。さようなら。
025【言葉はいらない、ただ・・・】2022.08.29
上等の紅茶葉に、沸かしたての湯を注ぎ、蓋をする。
言葉はいらない、ただ……砂時計の砂が落ちきるのを待つだけ。
夏休みもあと数日。きょうの夕焼けは、ことのほか綺麗です。
024【突然の君の訪問】2022.08.28
家の中にトンボが入ってきた。布団でも干そうと網戸をあけたすきに、すっと、オニヤンマが。
ヤンマは部屋の中をしばらくぐるぐるしていたが、そのうち、あけたはなしたままの網戸から出ていった。
これは、亡くなった人がこの世を懐かしんでやってきてるんだよ、と親からは習ってたけど……そうだ。今日は君の命日だったか。
突然の君の訪問。おいかけるように、ベランダに出る。
はるかな青空。そして、一片の白い雲。