「お金より、大事なもの…?」
「そう。なんだと思う?」
急にどうしたというのだろう。普段はどこか寂しげな先輩の目が、今は妙な真剣味を帯びている。
「愛とか時間とか友達とか家族とか、ですかね」
いつもと違う先輩の雰囲気に気圧されて、在り来りな言葉が空気を振動させる。
「確かに。大事だね。」
そう言った先輩の目は、いつもの寂しげな雰囲気に戻っていた。でも、だけど、それが、今はなんだか表しようのない焦燥感に駆られた。何かを、間違えたような。
「私ね、花火が好きなの」
「はなび?」
「そう。ドンって花開く瞬間も好きだけど、1番は散る瞬間。流れ星みたいで好きなんだ。…すぐ消えちゃうけど。
あのね、私は、私はね、お金よりも記憶が、大事だと思うんだ。」
あぁ、そうか。やっとわかった。先輩が、なんでいつも寂しそうにしてるのか。
「先輩、あの、僕も。先輩と過ごした記憶、大事にします」
忘れない。絶対に忘れない。先輩はきっと、どんなに美しい記憶もいつかは忘れて、忘れられて、消えてしまうから、いつも寂しそうにしてたんだ。
「…うん」
一言。そう言った先輩の目は、どこか嬉しそうで、流れ星のような煌めきが、見えた気がした。
#お金より大事なもの
真ん丸なお月様が、夜の街を照らし出す。
それはまるで君を照らすスポットライトのように。
ビルの屋上で空を見上げた君には、月は全てを見透かしている昼には見えない監視カメラみたいで、恐ろしく見えたのかな。だから、君の瞳は月に吸い込まれて動けなくて、ずっと見続けて、
君の死体は首が上を向いて、瞳は泣いていたのかな。
「ごめんね」
僕がそう言わなければ、泣きそう顔をした君に気付いて追いかけていれば。あぁ、''ごめんね。''そうやって人は過ちを繰り返すのだろう。
今日もまた、ベランダから月を見る。気付いた時には、僕の瞳は月から動けなくて、自分の下に地面がないことなんて知る由もなかった。
僕は今もまだ、月を見ている。
#月夜