過ぎていく日々
おぼろげに、でも鮮明に
あなたとの思い出をめぐる
もうなにも新しいものは生まれない
あなたがこの世を去ってしまってからは
もうなにも欲しいと思わなくなった
あなたとの思い出だけで生きていく
これ以上大切なものは
この手のひらに抱えない
だから、お願い
いつでも思い出すから
いつも想ってるから
わたしを置いて行かないで
あなた一人で
果てしなく遠いところに
◇いかないで◇
遠く離れても
この空で繋がってる
パートナーと離れて暮らしてる間
ちゃんと繋がってる、大丈夫よと
13時間の時差で寂しい自分に言い聞かせた
帰る目処がついたと連絡をもらったとき
お土産何がいい?と聞かれ
エアメールが欲しいと答えた
観光地ではない勤務地だと聞いていたから
せめてその時の思い出が甦えるものを、と
数日後、切手を買ってエアメールを出したよと連絡がきた
でも海外はいい加減だから、結構時間かかるみたいよ、とも
そして予定通りパートナーは無事帰国した
何が一番って、やっぱり元気で無事にわたしのもとへ帰ってきてくれるのが
とっても嬉しい
労を労って、回る美味しいお寿司を食べ
時差ボケのパートナーと一緒にたくさん眠った
週明けには普段の生活に戻っていって
1週間前まであんなに寂しかったのが嘘のように、もううざったくなってる
さて送ってもらったエアメールだけれど
まだ届いていない
届かない可能性も考えて2枚出したんだけどな、おかしいな
めんどくさくて捨てる郵便局員もいるらしいから
いや、でも、2週間かかって届くこともあるらしいから
などなど、聞いてもないことをたくさん喋ってくれる
この空の下、どこかでまだ日本を目指してくれているんだろうか?
とりあえず今週中までは
仕事から帰宅するパートナーに
ねぇ、ポストにエアメール届いてた?
と聞いて、んーまだみたい〜!
という微笑ましいやりとりをしようと思う
◇どこまでも続く青いそら◇
もう何年も着てない服がある。
いつか着るかも、は捨て時のサインというけれど、あれ捨てなきゃよかった!の後悔の方が後々引きずるので着るかもは基本捨てない。
でも、もう外では着ないだろうな、部屋着にするにしてもテイストが違うし‥という所謂"思い出の服"がある。
わたしが20代半ばの頃、ブランドものには興味がないものの当時お付き合いしていた彼氏に誕生日プレゼントで何が欲しいか聞かれて咄嗟に何でもいいからブランドものでひとつ欲しいと提案した。
ブランドビルが立ち並ぶ通りに出て、片っ端から店内に入っていった。
ドアマンに物珍しそうに見られつつも、ディスプレイしてある品物にうんうん唸りながらあれでもないこれでもないと吟味する。時折、これはどうかと彼氏に聞くのだけれど顔は穏やかだが上半身が斜めになる。
何軒か回って、どれも可愛くて欲しいのだがどうも自分には似合わなさそうだということに気づいた。姿見の鏡はあるがままを映すのだ。
彼もそう思っていたのだろう、今日買うものはブランドものではなくて洋服にしようと言ってきた。言われるがまま二人でレディースフロアに上がり、大人っぽい服を一着買ってもらった。
結果から言うと、あまり着なかった。とても気に入ってはいたが首元が広く開いていて下着のストラップが見えてしまうのだ。黒にしても見た目が気になるし透明なものはそれこそ安っぽさが出てしまって嫌だった。
その後結局彼とはお別れをして、洋服だけ残った。
後生大事に持っていたのと、それなりに良いお店で買ったのもあって未だにどこも綻びはなく綺麗なままだ。
衣装ケースを開いて目に留まると、着てみようかなと袖を通すのだが、なんだかしっくりこないなと思いやっぱり元あった場所へ戻す。
もうこんなギャルみたいな服は着れないかなぁと畳み皺を伸ばしながら、はにかんで斜めになった彼との数々の思い出が脳裏に蘇り、まだまだ捨てれそうにないな、と知らずと目を細めるわたしはそっと衣装ケースの蓋を閉じるのである。
◇衣替え◇
腹の底から頭が爆発しそうなくらい怒ったことがある。
今思うと笑っちゃうくらいブチ切れてて、普段穏やかなわたしを知っている人にこれを話しても誰も信じてくれない。
頬の表情筋が痛いくらい楽しかった日々がある。
あんなに接客が楽しくて仕事仲間ともふざけあってて、それだけで成り立ってた日々が懐かしい。年を重ね淑女となった今、人と多く触れ合う接客は天職だと思ってた当時の自分は可愛かったなと思う。
少し前に、わたしは大切な人を亡くしてしまって四六時中泣いていた。
悲しみの表現として"涙が枯れるまで"というのがあるが、あれは嘘だ。涙は枯れない。枯れないどころか鼻水まで垂れてくる。鼻が詰まって息ができなくなって鼻をかんでも鼻呼吸ができなくて仕方なく涙は止まるのだ。そして鼻の具合が落ち着いた頃にまた涙は落ちる。
つい先日パートナーとカラオケでしこたま歌った。彼は喉で歌うので声量はあるがすぐにガラガラ声になる。
わたしはというと歌い出したら止まらない質なので、お気に入りの曲をたくさん歌ってしまう。それこそフリータイムの終盤は声が飛んで裏声なんて出ない。それでも可愛い曲が歌いたくて、意気揚々と挑むのだが気持ちのいいくらいどこかに飛んでいく。
ここぞ、の音程が外れてふたりで笑い転げる。言わずもがなその笑い声も飛んでいる。スナックのママみたいな笑い声だ。
これまで酸いも甘いも経験してきて、数え切れないくらい春も夏も、秋も冬も越えてきた。そこらへんの小娘よりは豊かな経験をしていると自負している。
でも世のスナックのママたちはわたしなんか比じゃないくらい沢山のことを経験して、色んなことを知ってるんだと思う。
たかがカラオケで声が飛んだ小娘と一緒にしてほしくないと思うが、人生経験豊富なスナックのママ風情になった夜、わたしは無敵モードに突入してそこらへんの小娘にくだを巻きたい気分だった。
◇声がかれるまで◇
あのときの電話に
どんな意味が込められていたのか
あのときのわたしが
彼に会いに行っていたら
どうなってたんだろうって思う
終電間際に会いに来てよって、ズルイよ
あのときの2人は
もう少しで恋人になれたんだろうか
みんなに何考えてるかわかんないって言われてた天然の彼
わたしは 好き だったよ
知ってて、誘ったんでしょ?
でもそのあとは疎遠になっちゃって
わたしが会いたいって言ったら
電話じゃだめ?って
もう遅かったんだよね、たぶん
もう彼のとなりは空いてない
もう、彼の声も聴くことはないの
君の物憂げなビブラート 聴きたいよ
◇すれちがい◇