病室
病室にはいつも不穏な空気が漂っていた。医者も1日に何度も来ては首を横に振り縦にふることは一度もなかった。俺の姉はいわゆる植物状態だ。死んだも同然なのに俺は母親に毎日病室につれてこられた。そんな日々が続いているうちに俺はカッとなって言ってしまった。「どうして毎日毎日あの冷たい空気が流れている病室にいかなきゃいけないんだよ。俺だって放課後友達と遊びたいし勉強したい。母さんだって知ってるだろう。姉ちゃんがもう目覚めないことを」はっとして母さんの方を向くと同時に「パンッ」という音がした。俺は頬に手を当てて母さんをしっかり見た。母さんの目には涙と怒りの気持ちがたまっていた。「どうしてそんなこと言うの。友達と遊びたいのなんかどうでもいい。あんたのお姉ちゃんはもう友達と遊べないのよ」そう言って母さんは俺の腕を強引に引っ張った。だけど俺はその母さんの手を振り払った。「もうすぐ死ぬやつなんてどうでもいいよ。」俺はそう言って病院とは反対の方へと走り出した。その時俺は決めた。もうあの家族もとには帰らない。あれから21年この間植物状態で死んだと思っていた姉ちゃんに会った。でも姉ちゃんは俺の隣を素通りした。まぁ当然か。21年も経てば覚えているわけがない。でもなぜだろう。さみしいと思ってしまうのは。
だから、一人でいたい
もう嫌われたくない。その感情が生まれ始めたのは小2のときだった。みんなに笑われて悔しかったとき一人だけ手を差し伸べてくれた子がいた。だが、その子が笑っているみんなと同じやつだったことが分かるのにそう時間はかからなかった。あの時から私はほかの人と関わるのをやめた。辛くても悔しくても醜くても誰にも助けを求めないと決めた。だから、一人でいたい。誰にも関わらないそう決めたあの日の自分を裏切らないように。
お祭り
耳の奥に残っている太鼓の音。寝たいのにうるさくて寝れないお祭りの日の夜が私はとても嫌いだった。あの日までは。私の街のお祭りはフィナーレに花火が上がる。その最後の一発がハート型でそれを見ながら告白すると一生結ばれると言うジンクスがある。私は今日そのジンクスを使って10年間片想いしていた彼に告白しようと思う。フィナーレの花火が上がと私は「きれいだね」と言った。彼は私の方を見て「君のほうがきれいだよ」と言った。私は頬を赤らめてうつむいてしまった。それを見て彼は私の顔をつかんで無理矢理上に向かせた。「これじゃあ告白できないからね」そう言って彼は私にキスをした。私がびっくりしていると彼が改めて言った。「俺と付き合ってください」そう言ったとき示し合わせたようなタイミングでハート型の花火が上がった。私は半泣きで「よろしくお願いします」と言った。その日から私はこのうるさいくらいの太鼓の音が大好きになった。
神様が舞い降りてきて、こう言った。
前の【神様へ】というお題のとき俺は死んだお姉ちゃんに会いたいと神様に願った。その願いを聞いて神様が空から舞い降りてきた。そして言った。「お主の願いを叶えてやろう」そう言うと神様は持っていた棒をクルッと回した。その瞬間周りがピカッと光った。そして目を開けたときには神様ではなく死んだはずのお姉ちゃんが立っていた。俺はお姉ちゃんを見たとたん走り出したが、格好悪いことにすべって転んでしまった。するとお姉ちゃんは俺に駆け寄ってきて「大丈夫」と聞いてきた。その声は聞き馴染みのある俺がずっとずっと待っていたあの声だった。お姉ちゃんは「足怪我してる」と言って俺の手を引いて家に帰っていった。家に帰ると俺はお姉ちゃんの適切な処置を受けたあとテレビゲームや一緒にYouTubeを見たりして楽しい時間を過ごした。お姉ちゃんが戻ってきてからちょうど1日が経とうとしたときお姉ちゃんが改まったように言った。「空今まで本当にありがとうそして私の願い叶えてくれてありがとう。空のおかげで満開の桜が見れたわ。」そう言ってお姉ちゃんは俺の目の前から姿を消した。俺はお姉ちゃんが座っていたところに一つの手紙が落ちているのを見つけた。そこには注意事項と書いてあり「効果は1日で切れてしまいます。それでは大切な人との最後の1日をお楽しみください」と書いてあった。それを見て俺は空に向かって叫んだ。「神様ありがとうお姉ちゃん元気でね」そう叫ぶと空にある一つの星がピカッと光った気がした。
鳥かご
私はその日いつもより早く家を飛び出した。学校に行くと誰もいないことを確認して私はクラスで飼っている鳥のつーくんの鳥かごに歩み寄った。つーくんは先生が家から持ってきたインコでクラスの子たちは休み時間になるとつーくんと必ず遊んでいた。でも私は知っていた。つーくんはみんなが嫌いでずっと外の世界に憧れていることを。私は物心ついたときから動物の言葉が分かるという特殊能力を持っていた。それで今日つーくんをみんなに内緒で逃がしてあげようと思ったのだ。クラスの子たちには悪いが「朝来たら逃げていた」と嘘をつけばいい。そう思って私は思いっきり鳥かごを開けた。その瞬間つーくんは羽ばたいていった。私が外を見る頃にはもうその姿はなかった。私が鳥かごを閉めると後ろから物音がした。すぐに後ろを振り向くとクラス委員長の鮫島大翔がいた。「田中さんつーくん逃がしたの」そう聞かれて私はうなずいた。それから私は鮫島にすべてを話した。特殊能力が使えること、つーくんが外の世界に憧れていたこと。そのことを話すと鮫島は「じゃあ俺について来て」と言われついて行った。その時の私はまだ知らなかった。これから起きる悲劇に。