私は毎晩、寝る前にこの文章を書いている。電気も消して月明かりも届かない暗い自室で、ベッドに入りスマホをとる。アプリを開き、テーマに沿って執筆を開始する。書きながら、あんなことこんなこと、思い出しては消えていく。書き終えたら今度は日記を書く。その日あったこと、日々の中で感じること、忘れられない思い出。その全てを引き続き暗がりの部屋の中で書く。目に悪いだとか、行儀が悪いだとか言われても仕方ないことだ。しかし毎晩のこの時間が、自分と向き合って正直になれる数少ない時間になっているのも確かだ。今日も明日も明後日も、私は暗がりの中で文字を書く。
中学生の頃、定年になってもご厚意で勉強を教えてくれる先生がいた。家が近所だったので、友達に誘われて2年ほど教えていただいていた。2時間勉強を頑張ると、お疲れ様とティータイムの時間があった。洒落た洋菓子と共に出てきたのがティーカップに入った紅茶。独特な香りと味からあまり得意ではなかったが、甘いお菓子と頂くと美味しかった。今思うとこんなガキンチョにどうしてここまでしてくれるんだろう。色々あり疎遠になってしまったが、紅茶の香りを嗅ぐとあの勉強会を思い出す。
難しいお題が来たもんだ。ここ最近、恋というものをしていない。単純に出会いが無いのはもちろん、過去の出来事から少しトラウマ気味になっている。
しかし大好きな相手から愛の言葉を言われる憧れはもちろんある。公共の場でイチャイチャしたいだとか、誕生日に特別なプレゼントが欲しいだとか、そんな派手な体験は要らない。ただお互いに日頃からの感謝とともにもうひとつ愛のこもった言葉を紡ぐ。それだけで生活が華やかになること間違いなしなのだ。まずは相手から見つけないとね。
友達の話をすると長くなるが、今日はいちばん古くから付き合いのある幼なじみに絞って話をする。
彼女とはもうすぐ20年来の付き合いになる。保育園の頃から中学まで一緒、離れても高校の塾が奇跡的に被っていたり、何かと縁もある。
じゃあめちゃくちゃ仲が良かったと聞かれると簡単にYesとは言えない。向こうは冗談半分でも半ばいじめみたいな事をされたこともあるし、貸した教科書に落書きをされて帰ってきたこともある。後者については先生に覗かれるリスクを除いては割と楽しかったから良いけど、文にするとひどいなこれ。今はお互い大人になって落ち着いた付き合いをしている…と思う。
なんだかんだで一緒にはいるけど性格は真逆だった。人見知りでオタクの巣窟である美術部の一員だった私にとって誰とでも仲良くなる吹奏楽部の彼女には憧れもあった。他校の生徒とも簡単に仲良くなるのはもはや才能だった。話を聞く度「すごいなぁ」とぼんやり思っていたのを今でも思い出す。
彼女は大学に進学し、地元を離れて隣の県に引っ越した。再来月、彼女の元に遊びに行く予定だ。
その日はアパートへの引越しも終わり、住み始める日だった。大学生になった私は、隣県のワンルームアパートにすむことになった。学校から程よく近く、家賃もかなり安い。好条件のアパートだった。家族総出で何日もかけて行われた引越し作業も終了。私以外の家族全員がアパートから出ていき、車に乗り込む。それを窓から見ていた。じわじわ込み上げてくる寂しさ。何度も手を振る家族。
「行かないで」
それが言えたらどれだけ良かったか。しかし出来上がった自室を前にしてそれだけは言えなかった。今日から一人暮らし。今日から新生活。今日から大人……。酷いホームシックになって地元に帰るのはもう少し先の話。