〈事故で娘を失った父親に話をーー〉
テーブルの向かいで動画を見ていた友人に、思わずつっこんだ
「それ面白い?」
「……内容が内容だから、面白いかと言われると、別に?」
私の怪訝な顔を見て、友人は、
「ごめんごめん、和泉はこういうの嫌いだよね」と再生を止めた。
「ああ、ごめん、怒ってるとかじゃなくて、そっちこそそういう動画嫌いだと思ってたから気になって」
「たまたま目に入っただけ」友人はスマホの画面を見せてくれた。「この事故、今結構話題みたいでさ」
なるほど、その動画投稿サイトには、同じようなニュース動画いくつも並んでいた。どれも数時間前に投稿されたにも関わらず、視聴回数は数十万にも上る。
「興味が湧くのはわかるけど、嘆きを共有して何になるんだろう……」私はボヤいた。
「起こったことはどうしようもないもんね」
友人はふっと笑った。
「でもたぶん、うちらみたいに達観してる人は、少数派だと思うよ」
今度は私が笑う番だった。
「じゃなきゃ困る」
ーー私はもう疲れてしまった。
でも、不条理に抗おうと声を上げる人がいなければ、変革は望めない。それもわかってはいるのだ。
#不条理
妹は小さい頃から感情を表に出さない子だった。よく思い出すのは転んだ時。真顔で立ち上がって、自分や両親の方は見向きもせずにまた全速力で走り出していた。いやいや、今のは流石に痛かったろうと捕まえて確認したら、擦りむいていたこともあった。始めは鈍いのかと思ったのだが、母曰く、
「お兄ちゃんの真似よ」とのことだった。「あなたは転んでも泣かないでしょう?」
まあそうだが。
恐らく血は争えないということなのだろう。大人になった今でも、自分たち兄妹が涙を見せることはあまりない。そんな暇があるならもっと成すべきことがあるーーそんな思考が働くのだ。
#泣かないよ
バレンタインは毎年君に花束を送る。君は花に興味が無いし、この散らかったの部屋のどこに置くんだと言われるし(至極まともな指摘だと思う)、水換えも二人揃って仕事に出ていたら忘れてしまうし、問題だらけではあるのだけれど。花束を差し出した時の、ほんのちょっぴり照れる君の顔が見たい。
#花束
言葉にならない感情は文字にもできない。
でもそれほどの思いは、既に届いているだろう。
君の笑顔を見ればわかること。
#どこにも書けないこと
ベッドに寝転がって漫画を読んでいたら、猫が腹の上に乗ってきた。この上にはちょうど窓があり、陽当たりがよいため猫にとってもお気に入りの場所なのだ。よくあることなのでしばらく放っておいたが、そのうちトイレに行きたくなってきた。様子を伺いながらそっと身体を起こそうとするが、ペシッと尻尾が腕を打つ。細いまぶたの隙間から黄色い瞳がこちらを睨んでいる。起きるな、ということだろうか。
#ずっとこのまま