冬の空というのは、晴れていても黄色く霞んですっきりしない。おばあちゃんはここぞとばかりに換気をしたり布団を干したりしているけれど、僕は寒いのは苦手なので、できればこのままこたつに留まっていたいところ。そこへ、さあ一緒に散歩へ行こうと尻尾を振りながら、茶色い塊がぐいぐいと鼻を押し付けてくる。勢いに押されて畳の上に倒れ込むと、窓の上部から太陽が視界に入り、眩しさに思わず目を細めた。しかしこうして日向に出ると、暖かい気も……。そう思った矢先、換気している窓の隙間から風が入ってきた。ああ、やっぱり寒いじゃないか。そんな僕の顔の横で、柴犬は元気よく鳴くのだった。
#冬晴れ
ターコイズブルーよりも少し落ち着いた君の瞳は、晴天の空によく似ている。いつの頃からか、空を見上げると君のことが頭に浮かぶようになった。
#どこまでも続く青い空
君はなかなか写真を撮らせてくれない。今この瞬間の光の加減、空模様、絶対絵になると思っても、写真を撮りたいからそこに立って、などと言えば怪訝な顔をして歩き去る。
だから撮りたければ、何も告げずにいきなりシャッターを切る。大抵はぶれてしまったり、被写体が近過ぎたり遠過ぎたりで上手くいかないけれど。
でもお気に入りの一枚もある。これは確か、君の誕生日が近かった日。任務明けに機体から降りてきた時、春霞で淡い青色に染まった、夜明けの空を振り返る瞬間。逆光になってしまって表情はよく見えないけれど、薄雲の向こうからそそぐ柔らかい光に君は包まれている。
夜の間ずっと張り詰めていた空気が嘘のように、君が降り立った朝のなんと穏やかなことだろう。
#やわらかな光
仕事中、ヘルメットの奥に覗く君の真剣な眼差しに惚れ惚れする。だが周囲の人間からは、君は顔が怖いと評判だ。
ということは、君のかっこよさに気がついているのは俺だけなんだとーー俺の目にだけそういう風に見えるのだとはわかりつつも、ちょっぴり優越感に浸っている。
#鋭い眼差し
兄は昔から怖いもの知らずで、飛行訓練になると父の静止も聞かず、あっという間に高く舞い上がって見えなくなった。私は万が一途中でバランスを失ったらと思うと怖くて、地上に置いてけぼりを食らっていた。父がついていても屋根から本の数メートルばかり飛び上がったところまでしかいけず、
「そんなに低いと逆に何かにぶつかって危ない」とよく言われた。
そんな折り、どうして兄はあんなにやすやすと飛べるのかと、一度父に尋ねたことがある。
「お前はどう思う?」
「……自分の技術に自信があるから?」
「確かに、それもあるだろうな。だが恐らく最たる理由は……」父はかがんで声を落とし、近くで訓練の様子を眺めていた母に聞こえないよう耳打ちした。「あれは母親似で好奇心の塊だから、知らない景色を見に行くのが楽しいんだろう。空を見れば高くまで飛ばずにはいられないのさ」
父は悪戯っぽく笑った。
「お前は父に似たな。慎重なのはよいことだ。だが、怖いからと試してもみないのは、勿体ないぞ」
そう言った父の背中は大きく、当時の私には、父が空の全てを知り尽くしているかのようにさえ見えていた。自由に飛べるようになった今でも、憧れは色褪せないままだ。
#高く高く