record observer

Open App
3/22/2023, 2:59:14 PM

バカみたい

とある人物が最後に発した言葉だった。

誰に向けた言葉ではない。

虚空を見つめる眼は、嘆きと絶望で塗りかためられていた。

だから、誰も慰めの言葉をかけることはなく、視線を僅かに下へと向け、その「うらみ」の言霊を背負っていた。

時代に生き、移ろい行く世に信念や尊厳を殺された人物の言葉は、ありきたりながらも重く、残酷なものであった。

バカみたい
バカみたい
本当にバカみたい

3/21/2023, 10:02:05 PM

私は夢の中。

ふと、懐かしくなる光景が目の前に広がる。

田舎、田んぼ囲まれた畦道、遠縁に望む山々、神社。

人集りの多い参道を眺めながら、右往左往しているとそばにあった梅か桜の木から気配を感じ、視線を木に向ける。

すると、その木の裏から着物姿の「白」が印象的な少女が現れた。

彼女はこちらを見て口を動かしているが、何を言っていたのか思い出せない。

この時から夢に変化があった。

それまで視界に写る景色は、なんの変哲もない色彩であったはずが、まるで暖かみを表現したがるような彩りが追加され、現実的な感覚が消えていくのを覚える。

人の気配がしない。

私は、いや僕は、目の前に立つ少女の姿をした何かと二人きり。

冷たさはなく、いつの間にか触れられていた手からは、生まれてはじめての温もりを、まさに胸一杯に感じさせる。

繋がれた手が握られ、参道を進み境内を越え、日当たりの良い秘密の場所へと誘われる。

僕はそこで目覚めるまで、あるいは目覚めを促されるまで、彼女と座って遠くを見ていた。

僕はこの一時に、現実でも涙を流していたほどの安らぎを感じていた。

少女に繋がれた手は、決して放されることはなくさいごまで強く握られた。

会話もしていたが、他愛もない内容だったのかあまり覚えていない。

ただ、夢の終わりに言われ言葉は鮮明に残っている。

「待っています」

温かな口調であった。

私は布団の中。

観た夢の余韻に浸るように、涙を流し、胸の苦さに困惑する。

それでも、こんな二人ぼっちも良いものだと思いながら、一人ぼっちの日常へ戻っていく。