あの時の私は幼すぎて、あなたが家を出て行った理由なんて理解していなかった。「なんでいないんだろう」ってずっと思ってた。ただ、あなたがいない理由はなんとなく聞いちゃいけない気はしてた。なんとも思ってないように振る舞ったけど、ほんとは寂しかったんだよ。
大人に近づくにつれて、あなたが家にいない理由が理解できるようになってきた。今でもどんな事情があったのかは怖くて聞けていないけど。
あの時「行かないで」って言ったところであなたの選択は変わらなかっただろうけど、私の成長する姿をそばで見守ってほしかった。
#行かないで
雲ひとつない晴天の今日ならできる気がした。
長い間悩み続けても答えは出なかったのに。
決心のきっかけは「天気が良かったから」。
こんな気軽な決心で上手くいくかは分からないけど、自分なりに頑張ってみようと思う。
#どこまでも続く青い空
私の家では季節の始まりに「衣替えの日」が設定される。
その日は朝からそれぞれの部屋が騒がしくなり、全員がバタバタと忙しく動く。
父と母の部屋では母の指示のもとで父が動き、着々と衣替えが行われている。時々「それはそこじゃない!」と母の声が部屋に響く。
幼い妹2人の部屋では衣替えの途中でファッションショーが始まったようだった。2人はいろんなスカートやワンピースに着替えてモデルごっこを楽しんでいる。母が覗きにくるまでは衣替えが進むことはないだろう。
家族の騒がしい声を聞きながら私は一人部屋で衣替えを進めていく。家族の存在を感じながら季節の移り変わりの準備をするこの時間が私は好きだ。
#衣替え
声が枯れるまで泣き叫んだあの日。
これからも人生が続くことが恐ろしくてたまらなかった。絶望しかなかった。死にたいという言葉が頭に浮かんで消えなかった。
あの日の私に伝えたい。
恐怖と絶望しかなかった日々を生き延びてくれてありがとう。あなたが死を選択せずに生きてくれたから、私は幸せにたどり着けたよ。
学校に行けなくたって大丈夫。勉強が遅れてたって大丈夫。あなたは努力が足りないって自分を責めるけど、あなたは充分頑張ってる。そんなに自分を責めずに気楽に生きて。幸せは必ずやってくるから。その時までもう少し待っててね。
#声が枯れるまで
-始まりはいつもあっけないものだ。
学校からの帰り道、一枚のポスターが目に飛び込んできた。近くの美術館で行われている写真展のポスター。何に惹かれたのかは今となっても分からない。ただ心躍る感覚だった。
あの瞬間がなければ、今ここに私はいないだろう。
あの出会いが私の人生のスタート地点だった。
#始まりはいつも