未来、を意識することが怖い。
今日明日ちゃんと生きているのか、生きれているのかすらも分からない私には、「将来を見据えて生活する」ということがどうしても出来なかった。
日々日々生きることだけで精一杯だった。
だから私は己を、出来損ないと感じている。
それでも、否が応にも未来は一日一日ずつやってくる。だから、見てみぬ振りなど出来なかった。
将来を、未来を見据えるため、友人と話すことも度々だった。
その中で、
「あの娘が見据える未来に、私も描かれていたい」
という思いが、気づけば芽生えていた。
恋情に雁字搦めな自分は、未来予想図通りに生きられるのだろうか。
不安にまみれながら、不安を飼い慣らそうとしながら、不安に襲われながら、私は未来を描く。
未来の空の下で、きちんと笑えるように。
もし世界が終わるなら、隣で生涯を終える人にはあなたを選びたい。
今でも鮮明に憶えている。
中二と中三の頃。もう少しで生命を踏み外してしまいそうだった私を、あなたはどこまでも優しく受け止めて包んでくれた。一言だって否定することはなかった。いつだって、笑って保健室にいた。
私は泣こうが喚こうが笑おうが、いつだって味方でいて隣で支えてくれた。
あなたは遠く離れた東京へ行ってしまったね。
悲しいけど、もしかしたらもう会えないかもね。
でもね、大好きです。
せんせー。
『好きになってごめんなさい。できるだけ早く忘れるようにするので、今だけは赦してください』
好きの文句は、どこまでも自己否定から。
今振り返って、これが私だ、と思う。自己否定と自己嫌悪にまみれていた私らしい、告白だ。
全てを諦めた告白の陰で、きっと何かを期待した。もしかしたら、あわよくば、そんな愚かな恋心を自覚して自嘲した。
迷い込んだ。走った。迷った。転んだ。迷った。泣いた。抜け出した。
__恋に、堕ちた。
自由落下に気づく前に真綿のように優しく振られて、地面に墜ちてはしとどに泣いた。
恋慕へと姿を変えた友愛は、転生してまた一つ、洗練されてどこか穢れた友愛に育った。
失恋して尚、私は恋心を失えていない。
いつか、美しく葬ることができたなら。
それだけで、今の私は救われるでしょう。
朝、寝ぼけ眼は雨音で開いた。
世界がまだモノクロ世界に沈んで見える。いつもより幾分色づきの悪い朝は、しっとりと湿って街を揺蕩っていた。
この後の自転車登校を思ってげんなりしつつ、息を吸い込むと身体中に満ち溢れる雨の香りに心を少し踊らせる。
梅雨前線が日本に影を落とし、寝転んだ日だった。
初夏はいつも、梅雨をお土産にやって来る。
杪夏を目指して雫の梅は枝を伸ばす。
梅の花が散るように涙を溢す梅は、私たちが思う以上に泣き虫だから。
せめて、笑って迎えてあげればいいと思う。
「なかじん!」
『なかじん』こと私。本当は『なかじ~』というあだ名で通しているのだが、この新小二の少女はどういうことか、私をなかじんと呼ぶ。そしてとても無垢で楽しげいっぱいの笑顔を浮かべるのだ。
その子とは春のキャンプで出会った。
高校生の私に懐いてきてくれた少女だった。
お友達の手を握り、元気に跳び跳ねてはすっ転げて、いっぱいの笑みを振り撒く。
媚びない愛想をばら蒔いてきゃいきゃいと声を上げる。
かと思えばお母さんに会いたいと言って泣いた。
高校一年となった私にとって、小二になったばかりのその娘は可愛らしくも眩しかった。
どこまでも澄んだ瞳に世界が映る。
上がった口角は誰にも媚びへつらうことの無く、その満面の笑みは純白のパールが如く輝いて見えた。
あの娘には世界の素敵な面をたくさん見ていてほしい。
その無垢な瞳が濁らぬように。