時差かな?と笑って言えば平謝りの彼氏。別に怒ってるとかそんなつもりはないから、いいんだけど、なんだかかわいくて何も言わずにいたらもう一度謝罪がきた。
リンリン…とクリスマスらしいBGMと装飾が施されたバーカウンター。バーと言えばオシャレでそれなりの敷居の高さを感じる人もいるかもしれないが、彼氏の店だ。有り難いことに開店から約半月、彼氏の友人知人と謎の人脈で賑わいを見せて、今日は初めてのお休み。もちろん、クリスマスもお正月も、終わっている。にぎわう時期に合わせてオープンさせて、一段落したのが今日だ。
私はもちろん、毎日来店した。彼氏の勇姿を見るために。念願の店に立つ彼はとても嬉しそうで、きらきらして、見ているだけで幸せだったけど、彼氏からするとクリスマスも年越しもお預けを食らわせた負い目があるようで、お休みの今日に特別な一杯をプレゼントしてくれると言うので、お言葉に甘えることにした。
幸せな一杯だった。そしてクリスマスプレゼント。もう一度、時差かな?と笑えば、今日が僕らのクリスマスですと圧しきってきたから、笑った。
開けてみて、というから開けた小箱。中身の指輪を見た瞬間だけはビックリしすぎて笑えなかった。
いま、ちょっといいとこ。
そういって鼻唄ともに行ってしまった。
歩いて、立ち止まって、笑って泣いて、つみかさねていく。
さやさやとひかる
木漏れのさんぽみち
むかし住んでた家で起きた話なんだけどね。
もしかしたら妖怪かなんかの一種なんかもしれん。
壁に住み着く存在でさ。
聞けばどこの家にもいるっていうから、本当にむかしはどこにでもいたんだろうねえ。
その子は壁から離れられないのさ。
その代わりいろんな姿になって、その家の住人を驚かせるのさ。
よくあるだろ、ほら、勝手に古いビデオテープが再生されるとか。
んん…もう、家にビデオテープがない?
とにかくね、そういうことがあったんだよ。
それも実はその子の仕業でね。
その子は本物のテレビに成り代わって、画面にビデオテープの内容を流すんだよ。
その子は人様が楽しんでるのが、何より好きでねぇ。
ほら、ビデオってのは好きなものを繰り返し見るためにあるだろう。
だから本当は見た人を驚かすんじゃなく、住人を楽しませたいだけなんじゃないかって思うんだよ。
…本当はね、会ったことがあるんだよ。その子に。
私が会ったときの姿は、父と幼子の姿だったねぇ。
あとから思い出したんだけど、あれは当時やってたドラマの登場人物だったんだ。大好きで、何度も繰り返し見ていたから。
その子は成り代わるのがあんまし、得意じゃないみたいでねぇ。
ちょーっと、絵に描いたような曖昧さなんだけど、それがまたおかしくってねぇ。
さいしょはね、困ってたのを助けてあげたんだよ。
そしたら仲良くなってね。
あれになれるか、これになれるか、いろいろ言ってはその子が成り代わるのを楽しんでたのさ。
家族もすぐにその子に気づいてね。
みんなで遊んだのさ。
その時ばかりはいつもきびしい父親もきっちりした母親も、めずらしく声を出して笑うように遊んでね。
とても…そう、とても、楽しかったのさ。
すごく楽しかったんだよ。