シンナーのような匂いのする、悪臭のガスを
吸わされ、今、私は光と闇の狭間に居る。
手術室
私は中学生だがやけに子供扱いされているよ
うで、点滴ではなくガスで眠らされるようだっ
た。
「ゆっくり、時間をかけてやっているから安心
して良いよ」
何故か麻酔に強かった私は、眠気に抗わず
素直に目を閉じたのだがなかなか意識が落ちな
かった。
身体が痺れる。看護師さんが擦っているとこ
ろが、痺れる。
身体の自由が効かない。もう眠ったのだろう
か。だが、はっきりと意識がある。
焦る私を落ち着かせるかのように、あの名作
ジブリのサウンドトラックが狂ったように鳴り
響く。耳に残って、何時までも離れない──
✴ #光と闇の狭間で No.9
人と距離を取らねばならないこの時代。
“身体は離れていても、心は繋がっている”だ
なんて、綺麗事でしかなくて。
今日も今日とて、誰とも話せない。
いつしか心も離れていく。
この人間と未知のウイルスとの闘いが終わっ
た頃には、心の距離は随分離れているのだろ
う。そう考えると何故か虚しさに駆られる。
✴ #距離 No.8
泣くなよ。
俺は、御前のそんな顔が見たいんじゃない。
御前の…笑ってる顔が好きなんだ。
笑顔。
空を仰いだまま固まった私に、ぽつりと思い
浮かんだことば。
「笑えないよ…、笑えるわけ無いじゃん。」
✴ #泣かないで No.7
雪が降り出す。
この村では、それが冬の訪れの知らせだ。
囲炉裏を囲んで和む、家族の幸せそうな顔が
目に浮かび、それを細める。それはきっと、昨
年の私の家だろう。
「去年に、…戻りたい。」
そう、そっとつぶやき頬を手で擦る。伝って
いた涙が、中途で切れる。
それから、火のついた囲炉裏のそばへ行き、
炎を消す。辺りから、暖かさが失せていく。
もう、いいんだ。
✴ #冬の始まり No.6
終わらせないで、
終わらせないで!
終わらせないで…!
君は、半泣きにそう叫ぶ。
「ほら、主語が抜けてるよ…?」
ニコッと微笑んだつもりだったのだが…。生
憎、”不敵な笑み“の様に見えたらしい。
もう、やめて…
私を、……、も、…う、、………───
彼女が動かなくなった今、何を終わらせなけ
ればいいのかわからないが…
きっと“私の人生”を終わらせてほしくなかっ
たのだろう。つまらない、と僕は一つ息を吐
く。
──生きてても辛いから、ここに来たんじゃ
ないのかい?
また、…僕を悪者にして逝きやがって。
✴ #終わらせないで No.5