【赤い糸】
よく、運命の人とは赤い糸で結ばれている、なんて言われているけど、
そんなものって一体本当にあるのかな。
そもそも、赤い糸ってなんだろう?
指から赤い糸が見えて、それが運命の人に繋がっている、とか。
こんなこと、考えたこともないけど、
わたしはあの人と、結ばれていてほしい。
【入道雲】
―大きくて、迫力があって、綺麗じゃない?
夏の風物詩とも言えるかもね。
―何言ってるんだか、雨を降らしたらどっか行っちゃう、
悪い雲なんだよ。
そう思えばあの日、入道雲は不幸だけを産み落としていった。
わたしは彼女の遺影に手を合わせ、黙祷した。
ねえ、どこへ行ってしまったの。
彼女は、忽然といなくなってしまった。
空を見上げると、あなたはすぐそこに。
どれだけ手を伸ばしても届かない。
今年も、夏がやってくる。
今年も、あなたを見つけたい。
夏の始まりとともに、わたしは胸に誓った。
【夏】
夏といえば、何を思い浮かべるだろうか。
プールや海、花火大会、潮干狩りなど様々あるが、
私は、夏祭りを思い出してしまう。
去年の夏、ちょうどお盆の前に私達は夏祭りに行った。
高校に入って初めて、友達と外へ出かけたものだから、
正直とても楽しかった。
屋台で食べる焼きそばやたこ焼きは、格別の味だった。
そして当時、私には好きな人がいた。
同じクラスのスポーツ万能で、だけどとても面白くって素直な人。
私がその人に惹かれないわけがなかった。
その人もこの夏祭りに来ているらしく、どこかで会えないかな、と
密かな期待を抱いていた。
彼を見つけたのは、夏祭りの終盤だった。
かき氷屋の隣にあるベンチで、彼は友達となにやら話し込んでいた。
友達は、「行ってきなよ!」と背中を押してくれたが、
やはり好きな人を目の前にすると、緊張するものだ。
そんなこんなでもたついていると、彼の方が私に気が付いて、
笑顔で手を振ってくれた。
私も、それを見て顔を赤く染めながら手を振り返した。
けれど、私はすぐに友達の方へ戻った。
「ちょっと、もう少し話してきたら良かったのに。」
友達は、私の背中を叩いてゲラゲラと笑っている。
「うん、そうだね、でも、大丈夫。」
途切れ途切れ、私はそう言った。
ラムネ瓶を揺らしてビー玉が動くのをひとり眺めていると、
ふと、背後から足音がした。
雑音に紛れていても、確かにこちらへ向かってくる足音がした。
振り返ると、彼がいた。
彼の手にも、中にビー玉の入ったラムネ瓶があった。
「こんなところにいたの、ここ、暗いじゃん。」
いつも通り気さくに話しかけてくる彼を見て、モヤッとした。
「いつか、好きな人と来れたらいいよね、夏祭り。」
彼は不意に、私の気も知らずに言った。
私は何も言わずに、ただ黙って首を縦に振る。
「おれさ、隣のクラスに好きなヤツいたの。」
私は顔を上げた。随分驚いた顔をしていたと思う。
「でも、振られちゃった。」
彼は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「へ、へえ、どっちかっていうと、振る側じゃないかと思ってた。」
私も、なんでそう言ったのか分からない。
彼もとても驚いた顔で、私を見つめていた。
お願いだから、そんなに見つめないで下さい。
私の中の何かが、溢れ出てしまいそうだから。
ラムネ瓶の栓を開けると、炭酸の泡がたくさん出てきてしまった。
彼は慌てて、ポケットティッシュでラムネ瓶を拭いてくれた。
今なら、伝えてもいいですか。
だけれど、きっと沈んでいくのでしょう。
このビー玉のように、瓶の中に残っていなくてはいけないのでしょうか。
瓶の外へ出ることは出来ないのでしょうか。
ぜんぶ、伝えてしまえば出られる。
そして私は、ラムネをぐいと飲み干した。
【好きな色】
私は、いつも同じ光景を見ているけれど、
日によって見え方は全く違う。
ちょっと部屋が散らかっている時。
整理整頓をして綺麗になった時。
家具を新調した時、ぐうすか昼寝をしている時。
いろんな色が、常に見える。
自ずと、好きになってくる。
この部屋の色が、すべてが。
【あなたがいたから】
正直、あなたさえいれば良かった。
あなたは私の生きがいだったのに、
先に逝っちゃうなんて。
でも、あなたの余韻で生きていける。
いつまで続くか分からないけれど、
その余韻が途切れても、繋いでくれるような
かけがえのない人を見つけることにするよ。