君からのLINEが来ることは二度とない。なぜなら人生で初めてブロックという機能を使ったのだから。
「そもそも仲が良かったのか?」と聞かれると疑問が残る。ただ通っていた塾が同じで、志望校も同じで、通学路が同じだっただけの存在なのだから。それでも珍しい同姓だということで会話だけはしていた。とはいえ遅かれ早かれだったとも思う。だって合わないなと思うことや苛立ちを覚えることが定期的にあったのだから。
「指摘すれば良かったのに。」とは言わないでほしい。だって私は日和見主義なのだから。自分から争いの種をまくなんてよほどのことがない限りしようとは思わない。だから嬉しかった。君から「絶交しよう。」と言ってきてくれたことが。これで君と私は赤の他人、言葉にするだけでどれだけ楽になったことか。
思うところがないわけではない。LINEの友達がそんなに多いわけではない私からすれば少しだけ残念な気持ちもある。でもそれ以上に関係を修復した後の精神的負担の方が大きい、それは紛れもない事実だ。だからさようなら、私にとって他人なキミ。
私は今日も歌う。たった一人のことを思って歌う。彼は勇者だった。少なくとも私たちの村にとっては。
あの日私たちの村は魔物に襲われた。戦い方を知らないような人たちにとっては決して敵わないような奴だった。そんな時に彼がいたのは偶然だ。中央から調査のために派遣されてきた彼はいくつかの傷を作りながらもこの村を守り抜いた。そんな彼を村を挙げてもてなすことは当然のことだろう。しかし、彼は断った。「傷が癒えるまでの間の最低限の寝床があればいい。」と。ある時私は尋ねた。「なぜ。」と。彼は答えた。「自分は罰を受けなければならない人間なのだ。」と。それ以上は聞けなかった。
そんな彼が満身創痍で運ばれてきたのは旅立って2ヶ月ほど経った日のことだった。彼はこの村に向かっていた商人が魔物に襲われたところを救ったのだという。しかし、相手も強く追い返しはしたものの、立ち上がることすらできないほどの怪我を負ってしまっていた。数日後必死の手当てもむなしく亡くなってしまった。うなされながらも彼が遺した言葉は「少しは償えただろうか。」だった。
彼が何をし、何を思ってその命を落とすまで戦っていたのかはわからない。きっと彼を恨む人たちもどこかにはいるのだろう。それでも彼は私たちにとっては正しく勇者だった。だから今日も私は彼のことを歌う。この命が燃え尽きるまで。