帽子かぶってどこにいくの。
普段、帽子は愚かアクセサリーも付けないような彼が今、玄関で靴を履いてる。
その頭には、アメリカの野球少年が付けていそうな黒い帽子が乗っている。
帽子は、ずっと前からその頭にいるかのようにすっかり馴染んでいた。
彼は、少しダボダボな淡い色のジーパンに、白のオーバーTシャツというシンプルな服装をしている。黒のスニーカーが帽子の色とあいあまっていい感じに纏まったコーデになっている。銀のネックレス等をつけたら更にイマドキ風になるだろう。
だが、彼は、下着、靴下、服、靴という最低限なファッションでいたいらしく、アクセサリーを付けない。
しかし今日、帽子をかぶっている。
どうしてだろうと不思議そうに見ていると、彼は、私に気づいたようで、帽子のつばをくいっと下げ、恥ずかしそうにはにかんだ。
「これ、彼女にもらったんだ。普段はアクセサリーとかつけないんだけど、彼女が最近暑いからこれで暑さ対策してって。おかしいよね、オシャレ目的じゃなくて避暑目的なんだよこれ。」
なるほど。彼女から貰ったのか。
普段、アクセサリーも何も付けない彼が帽子をファッションとして選ぶなんてどうしたものかと思ったけれど、そういう事だったのか。
そういえば、1か月前、彼女が出来たって喜んでたな。
1ヶ月記念で貰ったのかな。
なんて考えているうちに、彼はもう準備できたようで、鍵を開けている。
ドアノブに手をかけたところでこちらを振り返り、
「あとで彼女来るから、来たらよろしくな。じゃ、いってきます」
彼女がくるの?よろしくってなに、?
私がそんなことを考えている間に彼は、いってきますと同時に扉を開け、ドアが閉まるまでのほんの少しだけ向こうから手を振った。
私は戸惑いを隠し彼を見送る。
「にゃー」
__帽子かぶって
__ただひとりの君へ
私は時々過去を振り返る。
今では考えられない様な行動をしていたり思わず叫びたくなるような言動が多々ある。
それらは決して思い出したい記憶ではない。
ただ、それにもかかわらず私は過去を振り返る。
それは何のためか。
意味なんてないのだ。
だから、むしろフラッシュバックしてしまうと言った方がいいのかもしれない。
思想がめばえ消えた。
_1年間を振り返る