彼と わたしは 幼馴染。
ふたりは 同じ街で 育ちました。
彼は 街を出る時に
必ず 戻ってくると
わたしに 誓いました。
彼は 何度も わたしに
手紙を 送ってきました。
わたしは 一度も
封を 開けませんでした。
一度でも 読んだら、
泣いてしまいそうだったのです。
そして 彼の連絡は
いつしか 途絶えてしまいました。
わたしは、街から 少し離れた
アパートを 借りました。
今日から ひとり暮らしです。
わたしは 張り切って
チーズオムレツを つくりました。
ふんわり焼きあがったオムレツと
スーパーで買ったワインと
サラダで ひとりきりの夜を
ささやかに お祝いしたのです。
わたしは 幸せな気分で
ベッドに 入りました。
ひとり暮らしの始まりは、
よく 眠れたのです。
明け方 ポストに
コトン と 何かが
投げ込まれる までは。
震える手で
四つ折りにされた紙を開き、
わたしは 涙を流しました。
「戻ってきたよ。これからは、ずっと一緒だ」
恋か、愛か、それとも 狂気か。
約束だよ。
わたしを楽しい夢のなかで
永遠に眠らせて。
あたしとタメ子の2人、暗くなった通学路をだらだら歩いていた。部室で片付けに追われていたせいで下校時間ぎりぎり。しかも正面玄関を出て、信号に引っかかっている間に雨がざんざか降り出した。もう最悪。
タメ子が折りたたみを持ってきていたから、なんとかなったけど。
「雨、止まないね」
「明日ほんとに大会やるのかな」
「朝までにはなんとかなるっしょ。そうじゃなきゃ困るわー」
「……そんなに楽しみなわけ?」
「いや別に。でもまあ早く終わって欲しくね?」
「応援とかだるい」
「あー。わからんでもないけど」
「先輩達がやる気出すのは勝手だけどさー。…うちらが金賞とれると思う?」
「普通に考えたら無理。なんでそんな目標目指すのか理解不能」
「そー。巻き込まんで欲しいわ。…明日具合悪くなろっかな」
「逃げんなしー。あんたがサボッたら同期全員顧問に絞められるー」
ふたりだけで愚痴を溢して、あたし達はまただらだらと歩き出した。
あたしもタメ子も気が重い。負け戦とわかっていながら、明日を迎えなきゃならないんだから。
-傘の中の秘密-
空高く
蝶が飛び立つ
雨上がり
傘の雫も
春夏を忘れる
勝ち負けなんて
どうでもいいよ
せいぜい少しだけ
早くゴールしたかどうか
数が多いか少ないか
タイミングがあったか否か
ほんのわずかな差しかない
結婚という人生の晴れ舞台まで
勝負ごとにしなくても
いいんじゃないでしょうか