鐘の音
除夜の鐘。それは私にとって最も注意すべきものだ。私が"この世"に居られるのはあと僅か。この短期間で、捜さねば。"あの小娘"を…
とうとうこの時を迎えてしまった。正月で賑わう人々の中を通り、"あの小娘"を捜す。絶対に近くにいる…私はそう確信していた。予想通り居た。私は急ぎ小娘の"背中"に飛び乗った。相手は勿論、無反応。私は小娘へ怨み、小娘が死ぬまで呪ってやろう。そう思っていた、そう思っていたのに、彼女の口から思わぬ言葉が発せられた。
「〇〇天国で元気にしてるかな?」そう言ったのだ。
「なんでぇ?」と隣の奴。
「いやぁ、だって可哀想だもの。あの娘の彼氏ストーカーだったのよ、"彼女の"。」
「どういうこと?」
「う〜ん、〇〇がストーカー被害にあってるときにタイミングよくくる男性がいてね、その人〇〇にとても優しくて一緒に夜帰ってくれたり、〇〇が一人にならないようにしてくれたりして優しい人…そう最初は思ってた。それからも〇〇のストーカー被害はなくならなくて、なんならエスカレートしていったの。そのときにはもう二人は付き合ってたから、あたしも流石に警察に…と思ってある日、被害届を勝手に提出しておいたの。その日はたまたま帰りが遅くなって夜道を一人で歩いてたら、少し先に〇〇の彼氏がいて声をかけようと思ったら、彼氏が〇〇をストーカーしてたの。だから、〇〇に別れたら?って言ったら怒っちゃって…そっから連絡がつかなくなってテレビで事件を知ったの。」
「あぁ〜!"ストーカー被害に遭っていた女性が殺害。犯人は〇〇さんの恋人でもあり〇〇さんのストーカーでもあった人物"で有名になった事件か!好きすぎて彼氏が殺っちゃったんですよね?確か!」
「そうそう。あの時怒らせずに〇〇に言えばよかった。本当の事を…」
「本当の事?ってなんですかぁ?」
「実はあの時、早く別れさせたくて"〇〇の彼氏私に下心あるみたいだから別れたら?私といるときのほうが楽しそうだし"って言ってしまったの。」…
私は思わず涙が溢れてきた。私の事を思っててくれたんだ。私の声は、思いは届かないかもしれないだけど口にしてあなたに言いたい、
「じゃあ、先輩。除夜の鐘鳴らして思いを晴らしましょっ!〇〇さんも先輩妬んで悪霊になんてなられたら困りますから、お祓いの意味も込めて!じゃあ、引っ張って!」
鐘の音が鳴ってしまえば二度と会えないし言えない。大きく息を吸って…
「ありが…」ドーン…ドーン…ドーン…
私の声は思いは最後まで、彼女に伝わる事がなかった。
友情
「友情って何?」
そう警察に聞かれても、答えれなかった。
それは俺が、友情という甘い言葉に浸っていただけだった。いや、勘違いをしていただけなのかもしれない。
俺は昔からずっと、友なんていなかった。だけど大学生になってから、俺に頻繁に話しかけて来る奴がいた。そいつは、なんか変な壺を紹介してきたり、変なビジネスに勧誘してきたり、とにかく変な奴だった。だけど、話しかけてくれることが嬉しくてその変な誘いにのっていた。だっていっつも誘いの最後に「俺らは友達だろ?俺とお前の間には友情があんだよ。友情ってのが。」と。そんなこと言われたら、嬉しくて誘いにのってしまう。たけどそいつの誘いにのっていると気づかない間にヒートアップしていた。そう、気づかない間に。俺はそいつに溺れていたから。ある日、「今日の夜空いてる?空いてたらさ、〇〇工場の倉庫に行こうぜ!面白いの用意してっから。な?俺らは友達だろ?俺とお前の間には友情があんだよ。友情ってのが。」俺はその誘いにのり、夜〇〇工場の倉庫に行った。真っ暗で何もわからなかった。だけど、そいつが懐中電灯で合図してくれた。その光を頼りに、俺は急いだ。俺とそいつの距離が近くなると、懐中電灯を消し俺に何かを持たせてきた。俺が「なんだこれ?」そう聞けば、「おもちゃのナイフだよ。今日は、暗闇の中でサバゲーな。俺があちこちに仕掛けを置いといたからそれに攻撃っ!すればいいんだよ。わかったか?」俺が「あぁ」と言えば「じゃあ、5秒後にスタートな!」そいつの声が遠のいていった。5秒数えてゲームが始まれば俺はゆっくり歩き、コツッと何が足に当たったらナイフをまっすぐに出し、グサッと音がなるまでナイフを振った。感触はなんとも言えない感じで、リアルなサバゲーだなぁそう思った。出口に近くなればなるほど的の数も増え、たくさんナイフを使った。ゲームの終わりが来て出口に出れば、そいつが待っていて
「やるじゃん友。」そう言ってくれると思った。だけど現実は違った。出口から出たら目の前にはパトカーと警察が何人もいた。俺が唖然としていると、警察が「さっき、通報があってね。〇〇工場の倉庫で変な奴がナイフを振り回して、たくさんの女性を殺してるってね。」そう言いながら、俺の手に手錠をかけ署へと連れて行かれた。
署では、今までのことを全部話した。すると警察は俺に
「貴方の…その、友情ってなんなの?だって、結果的に貴方はそのそいつ?…に騙されて連続殺人鬼になっちゃってるわけだから。」
「"友情ってなんなの?"」この質問に俺は答えられなかった。なんでだろう。今まで俺に"友"という存在がいなかったせいで、友情が何なのか。何が正解なのかわからなかった。どこまでが、友情ですむ話なのか。俺はどんどんわかんなくなっていった。ずっとグルグルと頭の中で、「友情ってなんなの?…友情ってなんなの?…」と回っていた。俺は頭が真っ白になった。だけど、頑張って答えた。あんまり、なんて言ったのか覚えてない。だけど、意識が遠のく前、目の前にいた警察は目を大きく開け、顔がグチャグチャに引き攣っていた。後日、あのときなんて言っていたか、警察の方に聞くと
「友情っていうのは…相手と仲良くなって、…殺すこと。…相手を笑顔で苦しまないように一気に優しく殺すことだぁぁ。」って言っていたと。
あぁ、そっか。そう思えば、俺の顔は笑顔で溢れて止まらなかった。
もしもタイムマシーンがあったなら
もしもタイムマシーンがあったなら、もう一度あの時に戻りたい…。貴方が…貴方が死ぬ間際に。戻らせて。
あの時貴方は幸せそうに、この世に悔いを残さず死んでった。でも、それは私にとっては最悪だった。
静かな病室、消毒の独特な香り、窓際に置いてある一輪の花。落ち着いた雰囲気が貴方の最期にとても似合っていた。近頃の貴方は元気がなかったもの。こんな日が早く来るなんて心の何処かではわかっていた。私達二人は幼い頃からの幼馴染カップルだった。お互いがお互いに愛し合っている…この時まではそう思っていた。私は、愛が重たい。親が私を産んでから早く死んでしまったから、両親からの愛を知らない。だから、自分は他人を愛すことでしか満たされなかった。だけど、貴方はこんな自分を愛してくれて…自分のワガママも聞いてくれた。
貴方の手をとり、撫でながら私は花をみて「綺麗。」と言ったら、貴方は「…嫌い。」。そう言うから、なんで?と聞き返そうとあなたの顔に視線を移すと、貴方が見ていたのは花ではなくて、"自分"だった。驚いて、「花のどこが嫌いなの?」そう聞けば、「お前だよ…お前のことが大嫌いだったんだよ。なんで彼女づらしてんだよ。俺の最期になんでお前がいるんだよ。お前はずっと勘違いしてんだよ。」と病気のせいでなのか、震えながら自分に言ってきた。自分は訳が分からなくて混乱してしまった。そしたら彼は、自分の手を振りほどき倒れた。
ピコーンピコーンと病室でアラームが鳴る。お医者さん方が来る。自分が病室から出される前に覚えていたのは、あなたの部屋にある花たちだった。
自分の近くを通る看護師が一人、「あの花たちはみんなご自分で選んでましたよ。綺麗ですね。」と自分に言ってきた。そうだったんだと思い好奇心で、花言葉を検索してみた。貴方の部屋にあったのは、黒のバラ、スノードロップ、キンギョソウ、ロベリア、黄色いカーネーション。それぞれを調べてみると、「憎しみ」、「あなたの死を望みます」、「でしゃばり」、「悪意」、「軽蔑」。だった。貴方は、自分が来ていることを知っていたんだ。今までは、狸寝入りしていただけだったんだ。きっと、喋りたくないからこうやって花言葉を通して伝えてたんだ。言ってくれればよかったのに、今までこんなに貴方に対してしてきたのに…私は涙が溢れた。
もしもタイムマシーンがあったなら、貴方が死ぬ時に戻って聞きたい。なんで、私を勘違いさせたままにしておいたの?私に、話しかけてくれた看護師は浮気あいてじゃないの?そうでしょ?あの花が飾られ始めたのは1週間前でしょ?その時のあなたは元気だったわよね?ご自分で選んでましたよ。って、一緒に行かなきゃわかんないじゃない…
私は過去に戻って、貴方を殺したい。
視線の先には
ポチャン…
「汚い赤…」そう言う彼女は白いワンピースに…
「ねぇ、なんで見てるの?なんで生きてるの?」そう言いながら、僕の目線にあわせてかがみこむ君。ふわりと風が吹けば、優しい柔軟剤の香りと鉄のような臭いがした。僕は、問われても声が出ない。というか、出せない。出せなかった。
誰も居ない僕の家。いや、居ない訳じゃなくて魂の抜けた抜け殻が2、3個残ってるだけ。
…「ねぇ、なぁんで?生きてるの?しぶといね〜。」
そう言いながら、彼女は笑顔で何かを僕に振りかざした。
(そうか、そうだったのか。僕が声を出せないのは、首を切られたから。声帯を切られちゃったのか…ハハッ。目の前が真っ暗だ。もしかして、目もやられちゃったのかな。)そう心で思っていたら、彼女の小さな笑い声だけが聞こえた。なんて言ってるか解らなかった。どんどん、声が遠くなっていく。僕は、目が見えなくなっても最後だけでも…ねぇ、君の視線の先には何が映ってるの?
…私の方を見る彼。動かなくなったからきっと、死んだんだろう。私は、最後まで私から目を離さなかった彼に好意を抱いた。
「ねぇ、初めてこんなにも綺麗な抜け殻を見たわ。有難う。貴方には感謝しているわ。」そう言い私は、スケッチブックに貴方の血と人物画を描いて持ち帰った。
私の視線の先には、これまでに無いほどの美しい抜け殻が映っていた。
1件のLINE
ピロン…この音が鳴れば私は赤い傘を持って急いで待ち合わせ場所へ行くの。
私を待ってくれている、そう思うだけで胸がキュンって苦しくなる。だから私は、無意識に小走りになる…
彼と初めて会ったのは、梅雨入りから始まって3日経った頃だった。
あの日私は、大学で高校生から付き合っていた同い年の彼に振られた。浮気されたのだ。私はずっと、ずっと好きだったのに彼は年下の女の子…と。自分の何がいけなかったのかを考えては泣き、考えては泣き。の繰り返しを空き教室でしていた。私は浮気されたショックから、本当はその日早く家に帰ることが出来たのに、泣いていたために2時間程度遅くなってしまった。
大学から出て、トボトボ駅に向かっていると
ポツ…ポツ……ポツポツポツ…ザァー−
「えっ?…嘘でしょ…?」
私は急いで、近くのお洒落な喫茶店に雨宿りがてら入った。
カランカランッ
「いらっしゃいま…せ。おひとり様ですか?…」
店員が途切れ途切れに私に尋ねるのは、きっと私の顔が涙の跡と急な雨でグチャグチャに見えるからだろう。なんせ、彼と会うときはいつもバッチリメイクだったから…
「はい…。」
そう答えれば、店員は窓際の二人席に私を案内した。
「ご注文がお決まりましたら、そちらのベルを鳴らしてください。」
そう説明してからすぐに姿を消した。私は、わざとみんなが目の前を通る大きい窓がある席に案内したのではないか…そう考えたら
「はぁ…」とため息が出た。
別に頼むものもないしなぁ…なんて考えていると、他のお客さんが入店して来た。私はハンカチで顔を隠しながら、メニューを見ていたら。
店員が「相席よろしいでしょうか?」と聞いてきたので、そんなに客はいなかったと思うけどなとハンカチから少し顔を出しあたりを見回すと、ほとんど満席だった。そんなにも時間がたっていたのか…と思い、
「あと少ししたら出るので、どうぞ。」
と、承諾した。目の前に座ったのは優しそうな雰囲気で眼鏡をかけて、いかにも頭が良さそうな本を持っていた男性だった。かっこいいなぁ…なんて思っていたら男性が、
「なんで、ハンカチで顔を隠しているんですか?」と聞いてきた。私は、顔がグチャグチャなので…と答えると、男性は「う〜ん…」と考えてから本を置いて、私の目の前にあったメニュー表を窓側に立てて、頬杖をついてグイッと私の方に近付き
「女の子はみんな綺麗なんだから、勿体無いよ?」
と言って、私のハンカチを優しく取ってきた。顔が露わになると、
「大丈夫だよ。僕しか見てないから」と言い、優しく私に微笑みかけた。つられて私も微笑むと彼はその後私をたくさん褒めてくれたり、私が笑顔になるようにしてくれた。
雨が小ぶりになったときに私は帰る準備をしていたら、彼が「連絡先の交換をしてほしい。」と言ってきたので、快く承諾すると「じゃあ、お礼に…3つ年上の先輩からのお礼。」と言い私に赤い傘を貸してくれた。
店を出ると、雨は止んでいたが"3つ"年上の先輩が貸してくれた傘を使って帰宅した。
「年上かぁ…」そんな事を考えているときには、私の心は青空のように心地よかった。
…あの日初めて逢って、たまたま同じ席になった3つ年上の彼。大学も違うし、頭の良さも違う。だけど、あのとき私は彼といて楽しかった。だから、彼からのLINEが来たら、赤い傘を持ってあの喫茶店に向かうの。
…僕があのとき彼女に話しかけたのは、”一目惚れ"の他ならなかった。だからいつもはあんまり人に話しかけないけど、頑張って話しかけて連絡先も聞いた。彼女が店を出るとき僕は思わず
「可愛いぃ」と声に出た。恥ずかしくて、顔が赤くなるのを感じて、しゃがみこんだ。
僕がメールをする時には、余裕がある年上に見えるように難しそうな本を読んでるふりをして君を待ってる。