好き嫌い
「…だいっ嫌い。」と私はテレビを観て呟いた。なんなら不思議と涙も出た。
私は彼の事が好きなのに、彼は私の事を1ミリも知らない。それすら悔しい。彼と一度も会ったことはないけど、私の頭の中では彼は私の"彼氏"。世界で1番大好きな人なのに…。
好きで好きでたまらない。そんな彼が出演しているテレビは絶対に録画するし、リアルタイムで観るのが鉄則だ。
ある日彼が主演のドラマを観ていたら、可愛い女優が彼とキスをした。その時私は胸がギュゥって苦しくなった。分かってる。あれだけ、テレビで
「僕の彼女は、テレビの前の皆さんです。」とか私に期待させる言葉ばかりたくさん言ってくれている。嬉しくない訳がない。なのに…期待を裏切られた気分だ。
彼は私のものでもないし、私は彼のものでもない。分かってる。私と彼との間には何もない。
"一般人と芸能人の関係"
だけど、あなたがテレビで発言するたび私の胸は高鳴るし、もしかしたらアナタの彼女に…なんて欲が出てしまう。
あなたの事を嫌いになれない。どんなドラマに主演しようとどんなに可愛い女優とキスをしても嫌いにはなれない。だけど、毎回裏切られたような気分になって、
「…だいっ嫌い。」
そう、呟いちゃう。
岐路
俺は今、人生を大きく左右する分かれ道にいる。
右を選べば少し苦しいが、生きる事ができる。
左を選べばもう罪を償うしか無いだろう。
どうせ俺は苦しい、どっちを選んでも…
そんな2つを目の前に俺は選択を急かした。
俺は選んだ道を進んだ。
グサッ…「ガハッ…」
俺の手には血だらけのナイフ、そして俺の手に倒れる相手…
俺は、この工場の中で人を二人殺した。俺の妻とその不倫相手の男を。この工場で全てを終わらせて帰宅するつもりでいた。なのに、俺が殺ってる姿を後輩に見られた。生かすか殺すか少し迷った。だって後輩は…
"俺の妹"だったから。
怯えた目で足は震え、まるで生まれたばかりの子鹿のように俺の目の前に立っていた。
血が繋がっている、だから迷った。
俺の中では、妹の目撃情報と自分の足で警察へ向う。もしくは妹を殺し、その妹を殺した姿をそこに座ってみているやつが他の人へ情報を流すならみんな殺す。そういう選択だった。俺は後を選んだ。だから俺は、妹に隠れて着いてきた虫達を殺す。俺はもう、生きる事ができないだろう。だって、こんなにも人を殺してしまったら…
俺は選択を誤ったかもしれない。二人だけにしとけば良かった。こんなにも沢山殺るなんて思ってもみなかった。
「これじゃあもう、こいつらの罪を償わないとだね」
と俺は笑いながら、俺を見るものは全て消し去っていった。
愛があれば何でもできる?
愛があれば何でもできる?本当に?
お金があれば何でも買える、できるってよく聞くけど人の心までは手に入れることができないでしょ?
だけど、愛だけがあっても出来ないことはあるでしょ?
例えば、自分の好きな人にはもう相手がいる。
自分はこんなにもあなたの事を愛しているのに想いは伝わらないし、伝えられないし。愛だけが私の心に残ってしまっている。貴方と恋人になれたら私が幸せにしてあげられるのに…って。
"愛があれば何でもできる?"
"うん"
…なんて綺麗事。
貴方はそう思っていても、私は違う。
だってあなたにはもう相手がいるじゃない。だから私は、あと少しの1歩をずっと踏み出せないまま…
失われた時間
失われた時間は戻らない、当たり前に。
例えば恋人と別れたとき、二人は当分会うことは無い。また復縁したとしても、前と同じように過ごす事ができない二人の時間。
あと家族がずっと幸せに暮らせる。だなんてよっぽど無い。例えば親の不倫、事故、病気で…など。家族が壊れる瞬間なんて沢山ある。その瞬間の中で最初に思い浮かぶのは"あのときは、本当に幸せだったな、"その一言。
"またあの時みたいに…"なんて簡単には言えない。だって、絶対にあの頃のように戻ることなんて出来ない。当たり前に戻るって言うことは、簡単にはできない事だと誰でも解っているから…
失われた時間は戻ってこない、なぜこんな当たり前のことを私は今の今まで解らなかったのだろう。
1年後
「1年後また会おう…」窓から見える桜から目を離さずにそう言う君は翌年もうこの世界にはいない。
君も自分もわかっている。だってここは君の病室だから。君はもう1年も生きられない。なんなら明日死んだっておかしくはない。なのに君は、翌年もここに居たいと欲を言う。
そんなことを言いながら微笑む君に「当たり前だよ…じゃあ、また明日。」そう言いベッドの横のパイプ椅子から立ちドアの前で止まる。このときの僕はもうわかっていたのかもしれない。ふぅと息を吐き、君に振り返り
「明日も…」そう言って、病室を出る。
半年後
君の病室に向かった。君の母親から連絡があった。君の病室のベッドを見ると君はこの世から消えてしまった。そう儚く思う。当たり前だった君との日常は桜のように綺麗に散り、何も無かったように翌年を待っている。
君との日々を振り返っていると、ベッドのわきに淡いピンク色の折り紙が置いてあった。それを手にすると、とても綺麗とは言い難い桜の形をしていた。すると近くにいた看護師が
「あぁ〜、それあの子が頑張って作っていたんですよ。なんか、来年もあいつと桜を見るんだ!なんて言っててね。でも、あの子もわかっていたのかも…その紙2枚あるでしょ?多分それはあなたの分だよ。」
看護師に感謝をいい折り紙を持って、病室を出る。ドアの前で、視界が歪んだ。目から温かい涙が溢れてくる。
嗚咽を出しながら、君の名前を言い泣いた。
だから僕は君との約束を果たすために、僕は毎年桜の折り紙と共に君の病室から見えた桜を見ている。